内部監査の立上げ及びその後の内製化に向け、専門家へのアウトソーシングを活用

上場準備を進める企業にとって、内部監査の立ち上げは重要な課題の1つです。特に、海外子会社を持つ企業では、各国の法規制や商習慣の違いを踏まえた監査体制の構築が求められます。
今回は、2024年11月に上場した、ドローンソリューションと運航管理システム(UTM)の開発・提供を通じて、次世代の空のインフラ構築を目指すTerra Drone株式会社(https://terra-drone.net/、以下、Terra Drone)の元内部監査担当者の石井氏に、上場準備段階での内部監査の立ち上げについてお話を伺いました。

幼少期から高校1年生まで海外で育つ。早稲田大学国際教養学部卒。新卒でスタートアップに入社し、海外法人営業を担当する傍ら、業務フローの構築を手掛ける。2022年7月よりTerra Drone株式会社にて資金調達実務、海外子会社管理及びリスク管理/内部監査の業務、IPO推進プロジェクトのPMとして2024年11月の同社上場を支援。

2013年、有限責任あずさ監査法人に入所。金融事業部にて、大手上場企業の会計監査(US-GAAP、J-GAAP)や内部統制監査業務などに従事。2019年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。上場準備企業の内部管理体制の構築・申請書類の作成、上場企業のリスクマネジメント支援や決算開示支援などに従事している。「誠実・謙虚・熱心」をモットーに、信頼できるビジネスパートナーをめざす。

2009年、公認会計士試験に合格。監査法人にて、会計監査および内部統制監査に従事。また、IPO支援業務にも携わる。2020年に独立開業後、税務顧問業務や決算支援業務等に従事するとともに、同時期より、提携パートナー会計士としてブリッジコンサルティンググループ株式会社に関与。内部監査やJ-SOX支援、決算開示支援等、IPO準備会社の支援全般を中心に従事している。 一般事業会社にも勤務経験があり、様々な視点や立場に立ちクライアントに寄り添って業務を実施することをモットーとしている。
内部監査立ち上げの経緯
──内部監査の立ち上げを担当することになった経緯を教えてください。
石井氏 「入社した時点ではすでにN-2期の折り返しで、上場準備の途中からプロジェクトに参加しました。入社前から内部監査を立ち上げる話があり、当時の管理部は経理機能が中心だったことと、私が前職で経営企画や商事法務の経験があったため、内部監査の立ち上げを行うことになりました。」
──内部監査の立ち上げを担当することになり、最初にどのように動かれましたか。
石井氏 「入社してすぐだったので当社の事業体制のことがまったくわからず、まずは社内の状況を把握することから始めました。グループ会社はすべて海外関係会社で、主に海外事業を管掌している役員によって管理されていたことに加え、遠方にあり地域も異なることから、管理部からの情報収集やアプローチが手薄になっていました。また、前職はBtoCのインターネットサービスだったのでBtoBの慣れない商習慣や、専門性の高い分野では知識不足を感じることも多く、専門知識のある連携先が非常に重要だと感じていました。そのため内部監査の立ち上げと同時にアウトソーシング先の選定も進めました。」
アウトソーシング先の選定
──内部監査のアウトソーシング先を選定するにあたって重視したポイントを教えてください。
石井氏 「社内に内部監査のノウハウがない状態だったので、知見やノウハウを持っている外部の専門家に協力いただきたいと考えました。自社の監査役ともコミュニケーションを取っていましたが、もっと気軽に相談できる相手が欲しかったため、これらの条件に合うアウトソーシング先を探しました。」
──BCGへ依頼することとなったポイントはどこにありましたか。
石井氏 「他社の提案では海外子会社の監査の話があまりなかったのですが、BCGの提案資料には、グローバル業務の支援事例が9件ほど記載されていました。海外子会社の監査が懸念事項の一つだったため、支援実績があったBCGに依頼することにしました。それ以外にも、私の前職の経験がリスク管理や法務に寄っていたので、会計の分野で支援いただけたことは非常にありがたかったです。」
内部監査立ち上げ時の課題と対応
──内部監査の立ち上げにあたって、最初はどのような体制でスタートしたのでしょうか。
石井氏 「内部監査の立ち上げはゼロからのスタートだったので、計画の相談や調書の書き方など細かいところまでフォローいただきました。ノウハウがなく手探りだったので、BCGにアドバイスをもらいながら進めていきました。」
──BCGの支援では、どのような点が心強かったですか。
石井氏 「私が内部監査調書作成を担当する一方で、BCGの竹節さん主導で業務把握のための質問リストの準備やヒアリングを実施していただいたことがとても心強かったです。入社したばかりだったので、1人で最初から全部やるのは大変だったと思います。内部監査インタビューではBCGの担当者に外部の専門家として同席いただき、普段聞けないことも外部支援者を通して聞きやすかったです。また私の知識のキャッチアップにもなったので、本当に良かったと思います。」
──内部監査の立ち上げ支援に際して工夫した点はありますか。
BCG徳川氏 「通常の内部監査支援としては、N-1期から内部監査実施していくケースが多いのですが、Terra Droneは海外子会社が複数あったため、N-1期での内部監査を円滑に進めるためにN-2期から内部監査のプレ実施を行うこととしました。 これにより子会社の管理状況など、どういった課題があるのかを事前に把握することができ、適切な監査計画を立てることができました。 」
──内部監査のプレ実施を行ったことで、具体的にどのような効果がありましたか。
BCG竹節氏 「内部監査のプレ実施を行ったおかげで、通常ならばN-1期の内部監査の段階で出てくる課題を事前に洗い出すことができました。これによりN-1期の内部監査実施前に重要な課題を改善することができ、N-1期の内部監査はかなりスムーズに進められたと思います。各子会社の課題を早い段階で見つけられたことが大きかったですね。」
海外子会社の監査
──当初懸念していた海外子会社の監査対応はどのように実施しましたか。
石井氏 「内部監査を立ち上げた当初は、まだ連結決算も始まっていなくて、子会社とどのように効率的に連携するかについてもゼロからのスタートだったので、まずは現状を把握するところから進めていきました。進めていくうちに、各国の法規制や商習慣の違いを踏まえた監査を行う必要があることがよくわかり、現地とのコミュニケーションや情報収集が大変でした。また、子会社の持ち分も様々で、監査のアプローチも配慮する必要があるということを知り、とても勉強になりました。」
──BCGの支援で良かったポイントはありますか。
石井氏 「内部監査のプレ実施ができたのがよかったですね。事業も複数展開していて商流も多岐にわたるので、プレ実施を通して内部監査の全体の流れを掴むことができ、外部の知見からコンプライアンスやガバナンスの考え方も学ぶことができました。 また、各国の海外子会社の内部管理体制整備は課題の1つなので、プレ実施を行ったことでそれぞれの課題を早期に発見することができ、対応を進められたのは良かったと思います。 」
内部監査の成果と今後の展望

──上場に向けた内部監査の取り組みを通じて、どのような成果がありましたか。
石井氏 「一連の取り組みを通じて、国内・海外の責任者にガバナンスに関する知識を共有する機会にもなり、リスク管理の意識は高まったと思います。結果として、スムーズに上場を迎えることができ、組織としての基盤が強化されたと感じています。」
──内部監査の支援を通じて、石井さんご自身や会社にとって財産になったものはありますか。
石井氏 「内部監査の支援を通じて、外部の専門家に相談できるという点で、自分の知識の向上や勘所が良くなったことが大きな財産になりました。また、いただいた雛形などは今でも使っています。何もない状態から調書を作るのは大変だったので、本当にありがたかったです。」
──今後、貴社の内部監査がさらに強化されていく上で、どのような点が重要だと考えますか。
石井氏 「上場企業として、より一層ガバナンス体制の強化が求められます。事業の成長が進み・変化していく中で、海外子会社の有効な内部管理体制を運用継続していくことは、引き続き重要だと考えています。また、事業の成長スピードが速く新規事業も多いので、攻めと守りのバランスが取れた監査体制が大事だと思います。」
Terra Droneの社風とさらなる成長
──竹節さんから見た、Terra Droneの社員の印象を教えてください。
BCG竹節氏 「Terra Droneの皆さんのヒアリングを通じて一番感じたのは、皆さんの熱量とスピード感の高さです。内部監査はどちらかというと煙たがられるケースが多いのですが、Terra Droneの皆さんは積極的に事業内容などを話してくださいました。むしろ私たちの質問に対して、仕組みや原理の逆質問をされるようなこともあり、エネルギーを感じました。当時私は3社の内部監査を担当していましたが、Terra Droneの皆さんの熱量、スピード感、説明する意欲の高さは突出していたと記憶しております。この社風がIPOをオンスケジュールで進められた一つの要因になったとも感じております。」
──石井さんから見て、Terra Droneの社員の特徴を教えてください。
石井氏 「Terra Droneは、年齢層としては30代がコアですが、20代の方もボリュームゾーンで、事業責任者を務めている20代の方も多く、活気のある雰囲気です。管理部の面々は特に、一つ一つの業務に対する丁寧な所作から視座も高く、個人的にはチームのみなさんにも毎日刺激をもらっています。」
──最後に石井さんから今後のTerra Droneの成長についてメッセージをお願いします。
石井氏 「当社は2024年 11月に東証グロース市場へ上場しました。今後更なる成長を目指し、国内事業および海外グループ会社の成長を支援していく中で、FP&Aのポジションを募集しています!ご興味ありましたら、ぜひご確認ください。」
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