創業6年でIPOを実現!上場準備を支えた内部監査の“戦略的アウトソーシング”とは?
成熟市場の英語学習業界で急成長を遂げたベンチャーがある。革新的な英語コーチングサービスを提供する株式会社プログリットだ。同社はマッキンゼー出身の岡田祥吾氏とリクルートキャリア出身の山碕峻太郎氏が2016年に創業。コロナ禍の逆風を乗り越え、2022年9月にIPOを果たした。
スピード上場を実現した要因は、サービスの新規性や優位性だけではない。背景には経営資源の最適配分と戦略的なアウトソーシングがあった。その象徴といえるのが、ブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)による内部監査支援である。経営トップと内部監査室長、BCGメンバーへの取材をもとに、上場準備の実像にせまる。
1991年、大阪府生まれ。2014年に大阪大学工学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社。製造業、ヘルスケア業界、金融業界など、幅広い業界の企業にコンサルティングサービスを提供。2016年、山碕峻太郎氏と株式会社GRIT(現:株式会社プログリット)を創業。英語コーチングサービスを開始する。2020年、Forbes Japanが発表する「30 UNDER 30 JAPAN 2020」に選出。2021年、Forbesが発表する「Forbes 30 Under 30 Asia 2021」に選出。2022年9月、東証グロース市場に株式上場。
内部監査室 室長/公認会計士 三好 佳奈
1990年、大阪府生まれ。2013年に大阪市立大学商学部を卒業後、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントに入社し経理部にて従事。税理士法人での経験を経て、2017年、株式会社プログリットに入社。管理部マネージャーとして、経理・総務・法務などを統括する。2019年、新設された内部監査室の室長に就任。ブリッジコンサルティンググループ株式会社と連携し、内部監査に取り組む。
1990年、富山県生まれ。立命館大学卒業。2013年、有限責任あずさ監査法人に入所。金融事業部にて、大手上場企業の会計監査(US-GAAP、J-GAAP)や内部統制監査業務などに従事。2019年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。内部監査を「あまり価値を感じないが義務としてやらなければいけない業務」ではなく、「クライアントの経営管理の課題解決に貢献できる価値のあるもの」にできるよう取り組んでいる。誠実・謙虚・熱心をモットーに、信頼できるビジネスパートナーをめざす。
受講者に伴走する英語コーチングサービスで急成長
プログリットの設立は2016年にさかのぼる。従業員ゼロ、創業者2名だけのスタートだった。転機は翌年。マッキンゼーOBでエンジェル投資家の故・瀧本哲史氏と出会い、初めて第三者の出資を受けたのだ。その後は同氏の助言や薫陶を受けながら、企業成長を加速させていく。受講者に専任コンサルタントが伴走する学習継続サポートを武器に、第2期の売上は約7億円、第3期は17億円を突破した。
岡田氏 「当社はVCの出資を受けていません。瀧本さん以外にも、多数の個人投資家(サッカー選手の本田圭佑氏、実業家の島田亨氏など)からご支援をいただいてきました」
次なる成長ステージをめざし、同社は2018年から上場準備に着手する。その主眼はIPOによる資金調達手段の多様化と信用力の向上だが、もうひとつ狙いがあった。コーポレート・ガバナンスや内部統制など、守りの強化だ。
岡田氏 「私は起業家なので、どんどん攻めるタイプです。でも持続可能な企業成長には守りが欠かせません。そのため、攻守両面に取り組まなければならない環境を選びました」
上場準備に必須の守りとして「監査役監査」「会計監査人監査」「内部監査」の三様監査がある。3つめの主体は自社の内部監査部門だが、成長途上のベンチャーが専門人材を確保するのは難しい。
岡田氏 「内部監査に精通する人材は少ないので、中途採用は現実的ではありません。かといって、既存社員がイチから学ぶのも非効率です。ならば、専門性の高い外部企業にアウトソースするのが合理的と判断しました」
内部監査の体制構築と運用実務をBCGが全面サポート
2019年、代表取締役の直下に「内部監査室」を設置する。管理部マネージャーの三好佳奈氏が室長を務め、主たる監査業務をBCGに委託した。
三好氏 「現在の社外監査役のひとりにIPOの体制整備についてご相談したところ、BCGを紹介していただきました。税理士法人や社労士法人を含めて、総合的な支援を受けられる点も魅力でしたね」
内部監査室と連携し、3期目の途中から試験運用が始まった。リスク評価、各部署のヒアリング、内部監査の計画書・手続書・報告書・業務改善通知書の作成、フォローアップ監査など、高い専門性が必要な業務はBCGが主導した。
また、プログリットは全国に9つの校舎(2022年11月時点)を展開しており、各校で内部監査を行う必要がある。しかし、内部監査室のメンバー(全3名)は他部署の職務を兼ねており、長時間を費やせないのが実情だ。そこでBCG担当者が各校を訪れ、一人ひとりの責任者にじっくりヒアリング。内部監査の実効性を担保しながら、内部監査室の業務負担を大幅に軽減した。
BCG德川氏 「当社の役割は、クライアント企業のナレッジやリソースが足りない部分の支援です。プログリット様にお願いしているのは、ヒアリングの日程調整、各種資料の提供、監査報告書をはじめとする成果物の確認、改善の判断など。両社の役割分担が明確なので、互いの業務が円滑に回っています」
組織力の源泉となる理念体系の浸透度をチェック
内部監査の運用当初は社内規程が整備されておらず、監査のチェック項目が少ない。そこで組織力を重視する岡田氏の意向をくみ、理念体系の浸透度をチェック項目に組みこんだ。
岡田氏 「監査報告書を読んで驚きましたよ。抜き打ちで検査したところ、ほとんどの社員がミッションとバリューを言えなかったからです。現場に腹落ちしない理念を掲げる意味はありません。翌期にはミッションとバリューを刷新し、浸透度の向上を確認しました」
BCG德川氏 「岡田社長は自らリスクを洗い出して、フィードバックを活かそうとする意識が強いですね。内部監査業務をアウトソーサーに丸投げする姿勢はとりません」
内部監査と並行して、BCGは社内規程の作成をサポート。守るべきルールが増えるにつれて、網羅的なチェックと改善のサイクルが回っていく。2020年8月期(第4期)の売上は21億円を超え、目前にIPOがせまっていた。しかし、コロナ禍の影響を受け、2021年8月期は創業来初の減収減益に。上場申請を延期し、経営方針を転換した。
岡田氏 「以前は急成長を志向していたので、コンサルタントも校舎もどんどん増やしていたんです。それがコロナ禍で過剰投資に転じてしまったので、適正な水準に是正しました。同時期にサブスクリプション型の英語学習サービスを本格スタートさせ、新たな売上の柱を確立しましたね」
不正やミスを防ぐ仕組みを整備し、上場審査を通過
コスト削減と売上アップを両立し、プログリットは再び成長軌道に乗る。大詰めの上場審査に備え、監査の網の目も細かくなっていった。2022年5月には、岡田氏が感心するレベルの報告があがってきたという。同社の営業プロセスを深く理解しないと気づけないような論点を指摘されたからだ。
岡田氏 当社は個人と法人のお客様に支えられており、それぞれ管轄部署が分かれています。ただ、法人営業部が企業にアプローチした後、そこの社員の方々が個別に契約するケースもありました。その際の成果をどの部署にどう集計するのか、人事評価のインセンティブ設計の周知が不十分だと監査報告でわかったんです。BCGのスゴさを再認識しましたね。社員よりウチを知っているんじゃないかって」
そして上場を申請し、東証の審査がスタート。各種書類の確認にくわえて、岡田氏や三好氏らに直接ヒアリングが行われた。棚卸差異の是正、申込手続きの二重チェックなど、内部監査を通じて整備済みの事項が多く、審査は粛々と進む。なかでも三好氏が成果を実感したのは、内部牽制の設計だったという。
同氏は管理部のマネージャーを兼務しており、以前は銀行振込の申請権限と承認権限の双方を有していた。その課題解消をBCGが指導し、振込申請の権限をアシスタントに分掌。マネージャーの権限を承認のみに限定した。
三好氏 「実際、不正入金を防ぐための仕組みを審査で尋ねられたんですよ。まさに内部監査で改善したばかりの点だったので、自信をもって回答できました。申請と承認の権限を2名に分けているので、不正入金はできませんと」
BCG德川氏 「証券取引所の質問対応を含めて、私たちは豊富な知見をもっています。そのため、IPO準備企業で注視すべき重点項目を事前にチェックし、適切に対処できるのです」
上場後も回り続けるフィードバックと改善の好循環
2016年9月の創業から丸6年。晴れてプログリットの上場は承認され、2022年9月に東証グロース市場へIPOを果たした。
岡田氏 「もし当社だけで取り組んでいたら、このスケジュールで内部監査の仕組みを構築できなかったでしょう。BCGには短期間でチームを立ち上げてもらい、プロの観点から遠慮なくご指摘いただきました。フィードバックと改善の好循環も回り、監査の価値を実感しています」
三好氏 「私は大企業に勤務していたので、内部監査の完成形は知っています。でもIPOの合格ラインとして、どこまで細かくやるべきかはわかりません。あえて制限を緩めたほうが、少人数のベンチャーは融通のきく側面もあるでしょう。そういった個別具体的なポイントを専門家に教えてもらい、非常に助かりました」
新たな成長資金を調達し、同社は攻めのアクセルをふむ。人件費や研究開発費などを増やし、法人に対する英語コーチング研修の積極拡大、サブスクリプション型サービスの強化と新規開発を計画。同業他社との連携やM&Aも視野に入れている。取材の最後に、IPOをめざす経営者へアドバイスを求めた。
岡田氏 「ほとんどの経営者にとって、上場準備は初めての経験です。社内に優秀なチームをつくらないと、わからないことがたくさんあります。その一方、社外のリソースを活用した方がうまくいく部分も多い。当社にとっては、それが内部監査でした。社内リソースをコア業務に集中させたいベンチャーは、戦略的なアウトソーシングを検討したほうがいいでしょう」
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