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2025年1月28日

東証プライム上場企業の選択。外部の専門家を活用し、内部統制を高度化する

ヒューリック株式会社(https://www.hulic.co.jp/、以下、ヒューリック)は不動産賃貸を中核事業にする総合不動産デベロッパーだ。1957年の設立から半世紀を経て、2008年に東証一部へ直接上場。市場区分の再編にともない、2022年に東証プライムへ移行した。そして2024年からは、内部統制の高度化に取り組んでいる。

そのプロジェクトを支援したのがブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)だ。同社は不動産賃貸事業に携わるヒューリックグループの関連部署をヒアリング。監査法人の要請にそって、内部統制の3点セット(業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクス)を精緻化した。さらに、リスクの潜んでいたプロセスを文書化し、内部統制の実効性を向上させたという。どのように両社が連携し、目的を達成したのか? 4名のキーパーソンに取材し、プロジェクトの舞台裏に迫る。

ヒューリック株式会社 監査部 参事役
ヒューリック株式会社 監査部 参事役 石村 孝行

1988年、株式会社富士銀行(現:株式会社みずほ銀行)に入行。本部にて企画・人事業務ほかに従事する。本店営業部、築地支店、営業店業務部を経て、計5店舗の副支店長や支店長を歴任。2017年、ヒューリック株式会社に入社。ヒューリックプライベートリートマネジメント株式会社(現:ヒューリック不動産投資顧問株式会社)へ出向し、財務経理部長に就任。投資法人の資金調達や投資法人および運用会社の決算業務などを統括する。ヒューリックリートマネジメント株式会社を経て、2021年にヒューリック株式会社へ帰任。監査部にて、内部統制の事務局を運営する。保有資格に「上級内部統制実務士」「IPO・内部統制実務士」「内部監査士」「宅地建物取引士」など。

ブリッジコンサルティンググループ株式会社 マネジメント事業本部 リスクマネジメント事業1部 部長 / 公認会計士
ブリッジコンサルティンググループ株式会社 マネジメント事業本部 リスクマネジメント事業1部 部長 / 公認会計士 德川 雄平

2013年、有限責任あずさ監査法人に入所。金融事業部にて、大手上場企業の会計監査(US-GAAP、J-GAAP)や内部統制監査業務などに従事。2019年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。上場準備企業の内部管理体制の構築・申請書類の作成、上場企業のリスクマネジメント支援や決算開示支援などに従事している。「誠実・謙虚・熱心」をモットーに、信頼できるビジネスパートナーをめざす。

ブリッジコンサルティンググループ株式会社 マネジメント事業本部 リスクマネジメント事業1部 マネージャー / 公認会計士
ブリッジコンサルティンググループ株式会社 マネジメント事業本部 リスクマネジメント事業1部 マネージャー / 公認会計士 滝澤 賢

2018年、有限責任あずさ監査法人に入所。金融事業部にて、国内企業の会計監査業務に従事。2022年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。上場企業に対する内部監査・J-SOX支援、上場準備企業に対する社内管理体制の構築支援(社内規程の整備、J-SOX文書化/評価、内部監査)などに従事。クライアントの経営管理の課題を親身になって考え、誠実に取り組む。「中立的な立場からクライアントのよき理解者となること」をモットーに、本質的な課題解決をめざす。

ブリッジコンサルティンググループ株式会社 提携パートナー / 公認会計士
ブリッジコンサルティンググループ株式会社 提携パートナー / 公認会計士 伊藤 聖太

2013年、公認会計士試験に合格。PwCあらた有限責任監査法人(現:PwC Japan有限責任監査法人)にて、会計監査(J-GAAP、IFRS、US-GAAP)および内部統制監査(J-SOX、US-SOX)に従事。2023年に独立開業後、主にJ-SOX導入支援やJ-SOX高度化、財務会計コンサルティングなどに従事。同時期より、提携パートナー会計士としてブリッジコンサルティンググループ株式会社に関与。上場企業のJ-SOX支援を中心に従事している。

INTERVIEW

監査法人の要請を契機に、内部統制の高度化をめざす

上場企業にはJ-SOX(内部統制報告制度)対応が義務づけられている。ヒューリックでは、監査部が内部統制の事務局を運営。毎期の整備・運用状況の評価にともない、3点セットのメンテナンスを続けていた。

転機は2023年に訪れる。まず同年4月、金融庁より「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について」が公表された。そして同じ頃、監査法人から3点セットの見直しを求められる。それは例年通りの軽微な調整ではない。“精緻化”と呼ばれる大幅な修正だ。

たとえば業務記述書に「再鑑する 」という言葉が記載されている場合、その具体的行為を担当者が理解していても、曖昧な余地を残してはならない。「誰が」「どの書類を」「どのように再鑑して」「何の証跡を残す」と詳しく記載すべき――。そう監査法人に要請されたのだ。

これらの環境変化は好機でもある。監査部の石村氏は積年の問題意識をもとに、内部統制の“高度化”を構想。精緻化に留まらず、実効性や効率性の向上も包括的にめざした。

石村氏 「2008年の上場以来、当社は3点セットを大きく見直してきませんでした。せっかく精緻化に取り組むなら、この機会に記載内容と業務実態を改めて照合し、作業ステップ・リスク・コントロールの過不足などを洗い直したい。その手始めとして、2024年12月期は不動産賃貸の業務プロセスを対象にしました」

INTERVIEW

BCGの実績・担当者・提案内容などを総合評価

監査部は計5名の社長直轄組織である。参事役の石村氏は「上級内部統制実務士」などの資格を保有し、同分野の専門知識を身につけている。しかし、部長を除く3名は内部監査が主業務であり、内部統制に精通しているわけではない。つまり、社内の人的リソースは限られていた。

石村氏 「内部統制を高度化するためには、専門的な知見やスキルが必要です。私もそれなりに知識はありますが、ひとりでは間に合いません。かといって、専門性の高い人材を採用するのも難しい。そこで、外部の専門家を活用しようと考えました」

石村氏は内部統制の分野に秀でたコンサル会社を調査。BCGを含む2社に候補をしぼり、プレゼンテーションを受ける席を設けた。両社それぞれに優れた点があり、出席者の意見は割れる。最終的に同氏が重要事項を勘案し、BCGに依頼することを推挙した。

石村氏 「BCGは支援実績が豊富で、上場企業の安定性もあります。そして、プロジェクトメンバーが信頼できる。不動産業界の支援経験、内部統制の専門性、人柄など、総合的に優れていると評価しました。あとは当社と同じ内部統制文書化ツールを用いて、フローチャートの修正まで支援してくれる点が実務部署に好評でしたね」

INTERVIEW

専門家の見解を聞き、自社の内部統制レベルが明確に

2024年3月、BCGによる支援が始まる。同社のプロジェクト責任者は德川雄平氏、管理者は滝澤賢氏、実務担当者は※パートナー会計士の伊藤聖太氏。3名の公認会計士がチームを組み、ヒューリック監査部と連携した。

※パートナー会計士:BCGと業務委託契約を結んでいる公認会計士等。同社が運営するワーキングプラットフォーム「会計士.job」には5,100名以上(2024年12月時点)のプロフェッショナル人材が登録しており、顧客企業の課題解決に適した公認会計士らが各プロジェクトにアサインされる。

伊藤氏は大手監査法人で上場企業の内部統制を監査してきたエキスパート。たいていの場合、担当企業の3点セットを一読すれば、改善すべき箇所をすぐに発見できる。しかし、ヒューリックの同文書に不備は見当たらなかったという。

BCG伊藤氏 「詳しく記載すべき項目はありましたが、重要なポイントは押さえられていました。完成された文書を改善するのは、容易ではありません。気を引き締めて、今回のプロジェクトに参画しました」

石村氏 「私は他社の内部統制を詳しく知らないので、当社のレベルがわかりません。伊藤さんの見解を聞いて、それを明確に把握できたのは収穫でしたね」

監査法人からはBCGの支援開始と同時期に、20項目以上の精緻化すべき項目が示されている。監査法人がウォークスルーを実施する同年8月までに、これらに対応する必要があった。

BCG滝澤氏 「ひと通りの資料をいただいたので、基本的な情報は把握できます。関連部署の方々の負担を増やさないように、ミーティングが2回で済むような計画を立てました」

INTERVIEW

商慣習の変化に合わせて「フリーレント」のプロセスを追加

同年4月、初回ミーティングを開催する。石村氏のほか、ヒューリックグループの関連部署から10名以上が参加した。BCGはあらかじめ要点をしぼって、各部署の担当者にヒアリング。業務実態を詳細に把握し、リスクやコントロールなどに関する課題を抽出した。

BCG伊藤氏 「不動産賃貸事業はプロセスの数が多く、本来はヒアリングに2日間かかってもおかしくありません。事前に石村さんと基本的な認識をすりあわせ、関連部署とのミーティングを2時間半で終わらせました」

翌月、2回目のミーティングを開催する。この席の大きな成果は、3点セットに新たなプロセスを追加した点だ。それはフリーレントの調整。ひと昔前のフリーレントは1ヵ月程度だったが、最近は年単位の期間を設定するケースも増えている。つまり、2008年の上場当時と比べて、フリーレントに関する処理が複雑化し、会計処理を誤るリスクが高まっていたのだ。

BCG伊藤氏 「ヒューリックの取引総額から考えると、フリーレントに関するリスクは必ずしも高くありません。ただ、詳しく話を伺うと、すでに実務上チェックされている項目がありました。それなら、業務負担を増やさずに内部統制の実効性を高められる。既存の検証項目をコントロール内容として整理し、文書化したほうがいいと提案しました」

石村氏 「これは現場の発案でも、監査法人の要請でもありません。BCG独自の提案であり、外部の専門家を活用した成果といえます。社内検討では固定観念や実務に埋もれ、顕在化しなかったでしょう」

INTERVIEW

想定外の追加修正にも、プロジェクトチームが迅速に対応

2回のミーティングを経て、伊藤氏が業務記述書を更新。監査部の確認も終わり、完成間近のはずだった。ところが、想定外の事態が生じる。同文書を監査法人に提出したところ、コメント入りのExcelファイルが返ってきたのだ。その内容は追加修正の依頼。精緻化の粒度や文章表現について、さらなる深掘りを求められたのだ。数は48項目。当初の要請に関する深掘りだけでなく、新たな要請も数多く含まれていた。その対応に石村氏は頭を悩ませる。

同年6月、監査法人との直接協議を実施。BCGの3名もミーティングに同席し、追加修正の対応などについて意見を交換した。 そこで明らかになったのは、内部統制高度化の"目的"の違いだ。

ヒューリックは『内部統制監査目的』で精緻化していた。しかし、監査法人はより細かい『財務諸表監査目的』での精緻化を求める。結果として、両者が求める精緻化の粒度(細かさ・精緻さ)が異なり、追加修正を求められることになったのだ。

石村氏 「私も監査法人も『いいものをつくりたい』という想いは同じです。監査法人の考え方を理解して、追加修正の実施を決めました」

実質的な期限まで、残された時間は少ない。3社協議の結論にそって、BCGのプロジェクトチームが手分けして対応した。伊藤氏は業務記述書を迅速に再修正。それらのExcelファイルを滝澤氏が内部統制文書化ツールに取りこみ、3点セットを整える。このような両氏の連携により、ついに統制文書の更新が完了した。

INTERVIEW

ウォークスルーを通じて、3点セットの高い完成度が実証される

同年8月、監査法人によるウォークスルーが予定通り実施される。担当者がヒューリックグループの関連部署を訪れ、業務プロセスのコントロール整備状況の有効性などを確認した。例年ならば、その後に監査法人から多数の質問が寄せられる。それが今回は、不動産賃貸の分野に関しては皆無。つまり、3点セットの記載と現場業務の実態に相違がなく、更新文書の完成度が高いと認められたのだ。

石村氏 「ウォークスルーが終わり、当初の目的は達成されました。それは業務のリスクを洗い出し、それに対するコントロールを効かせて、詳細に文書化すること。多数の項目を高度化し、内部統制の理想に近づいたと感じています」

同社による内部統制の高度化プロジェクトは、これで終わりではない。今後も不動産投資や不動産評価など、4つのプロセスの高度化を計画している。見直す項目は多岐にわたり、監査法人の求める水準も高いだろう。

石村氏 「BCGは内部統制の知見や経験が豊富で、非常に勉強になりました。成果物の品質はもちろん、コミュニケーションも円滑です。私の一存では決められませんが、これからもBCGへの依頼を検討しています」

取材・執筆/高橋 雄輔

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