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2024年11月25日

岡山の中小企業がTPMに上場。その準備中に直面した問題と解決法とは?

IPOは都市部の大企業やスタートアップだけに許された特権ではない。地方の中小企業に対しても、株式市場の門戸は開かれている。その門を潜り抜けたのが、岡山県玉野市に本社を置く株式会社NICS (https://www.nics.ne.jp/、以下、NICS)だ。ソフトウェアの受託開発を行う同社は※TOKYO PRO Market(以下、TPM)上場を計画。1974年の設立から半世紀を経て、2024年8月にIPOを果たした。

その背景には、ブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)の手厚いサポートがある。BCGは経営者の身近な相談相手として、上場準備の初期段階から伴走。関係機関の紹介、会計制度の整備、内部監査、株価算定などをワンストップで支援した。NICSのオーナー経営者とBCGのプロジェクトマネージャーに取材し、IPOの舞台裏にせまる。

※TOKYO PRO Market:東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの株式市場。株主数・流通株式・利益額などの形式基準(数値基準)がなく、柔軟なガバナンス設計による上場ができる。

株式会社NICS 代表取締役社長
株式会社NICS 代表取締役社長 山根 慎一郎

1991年、キヤノン販売株式会社(現:キヤノンマーケティングジャパン株式会社)に入社。2000年、株式会社日本情報管理システム(現:株式会社NICS)に入社。取締役を経て、2004年に代表取締役社長へ就任。同社の業績不振を立て直し、成長軌道に乗せる。2024年8月、東証が運営する TOKYO PRO Market に株式を上場。AI 活用やオフショア開発を推進し、質の高いサービスの効率的な提供をめざしている。

ブリッジコンサルティンググループ株式会社 西日本統括事業部 広島事務所長/福岡事務所長 公認会計士
ブリッジコンサルティンググループ株式会社 西日本統括事業部 広島事務所長/福岡事務所長 公認会計士 谷口 康平

有限責任監査法人トーマツにて、会計監査や株式上場支援、内部統制の構築支援など、様々な業務を経験。2011年の東日本大震災を機に、岡山県へ移住する。事業会社を経て、税理士法人で税務申告や税務相談業務に従事。2019年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。中四国・九州地方を中心にコンサルティング業務に従事。都市圏にはない様々な課題がある地方企業において、クライアントのニーズを素早くキャッチし、ワンストップサービスによる解決をめざす。

INTERVIEW

港湾物流システムの開発を軸に成長。大都市圏の顧客開拓へ

NICSは半世紀の歴史をもつIT企業だ。船舶配管工事会社の電算室が分離・独立し、1974年に日本情報管理システム(現:NICS)を設立。大手造船会社の港湾物流システムをはじめ、さまざまなソフトウェア開発やハードウェア販売などを開始した。

その後はバブル景気を経て、新規事業に失敗。その後も低迷が続き、経営を再建するため、創業家の山根慎一郎氏が2004年に代表取締役社長へ就任する。同氏は「おおいなる下請け」という創業の原点に立ち返り、会社を再び成長軌道に乗せた。

転機は2019年に訪れる。ベトナムへのオフショアを実施し業績を伸ばした途端、M&Aの大手仲介会社の担当者が訪問してきた。その際大手M&A仲介会社から意外な提案を受ける。事業継続の有力な選択肢として、TPMへの株式上場を示されたのだ。

山根氏 「一般市場と異なり、TPMには利益額や時価総額などの形式基準がありません。当社の身の丈に合った上場ができると考え、本格的に検討を始めました。上場すれば信用力が上がり、大都市圏の新規顧客を開拓しやすくなります。また、地元岡山の優秀な人材を採用するためにも役立つでしょう」

INTERVIEW

BCGの業界ネットワークを活用し、証券会社や監査法人を選定

2020年からNICSは上場準備に取り組む。しかし、地方の中小企業はIPOに関する情報や人脈が乏しく、何から始めればいいかわからない。IPO経験豊富な信託銀行に相談すると、IPOを総合支援するBCGを紹介された。対応したのは福岡事務所・広島事務所の所長を務める谷口康平氏。この出会いが後の良縁につながっていく。

次は「J-Adviser」の選定に着手する。これは一般市場における主幹事証券会社のような存在。上場準備の助言・指導にくわえて、東証の代わりに上場適格性の調査・確認などを実施する。山根氏はJ-Adviserに認定されたばかりの中堅証券会社にJ-Adviser契約を打診し、協議を始めた、そんな折にコロナ禍が訪れ、協議は長らく中断する。

その後もその証券会社から音沙汰がなく、山根氏はBCG谷口氏に相談。すると、TPM主幹事の実績豊富なフィリップ証券を紹介される。話はとんとん拍子に進み、同社とJ-Adviser契約を結ぶことになった。

上場準備には、会計制度の整備も欠かせない。NICSは従来の税務会計から財務会計(企業会計)に変更する必要があった。そこでJ-GAAP(日本会計基準)導入支援をBCGに依頼。会計監査に適合する決算体制を構築した。

しかし、監査法人の選定に難航する。東京の監査法人と協議を続けるうちに、地理的な問題と役員との齟齬が垣間見えたからだ。山根氏が再びBCG谷口氏に相談すると、地元岡山のイースト・サン監査法人を紹介される。同社に親身な対応を受け、ようやく監査契約にこぎつけた。

山根氏 「結果的に地元の監査法人で良かったですね。当社のような中小企業に対しても、親切に指導してくれるからです。谷口さんには素晴らしい方々をご紹介いただき、感謝しています」

INTERVIEW

公認会計士のプロジェクトチームが「内部監査室」に伴走

TPMは一般市場と異なり、内部統制報告書の提出や四半期開示が必須ではない。その他の開示書類や申請書類の作成については、関係機関の助言・指導を受けられる。必ずしも、NICSに上場準備のリソースが足りないわけではなかった。

ただし、同社には内部監査の知見がなく、実務経験者もいない。また、同分野はJ-Adviserや監査法人の支援範囲に入らない。そこで2023年1月に「内部監査室」を設置し、担当者2名を配属。次年度から自立できるように、BCGに支援を依頼した。

まずはBCG谷口氏と実務担当の※パートナー会計士がプロジェクトチームを組成。キックオフミーティングを開き、山根氏と内部監査担当者に年間スケジュールなどを示した。次の段階は、予備調査と監査計画。BCGが各部門の責任者に対するヒアリングを主導し、内部監査の計画書と手続書(チェックリスト)を作成した。

※パートナー会計士:BCGと業務委託契約を結んでいる公認会計士等。同社が運営するワーキングプラットフォーム「会計士.job」には5,000名以上のプロフェッショナル人材が登録しており、顧客企業の課題解決に適した公認会計士らが各プロジェクトにアサインされる。

INTERVIEW

監査実務のナレッジを共有し、新任担当者の自立を支援

その後、両社が協働して内部監査を実施。NICSのメンバーから疑問や不明点が生じる度に、BCGが回答してナレッジを伝えていった。特に難しいのは、課題の見極め。被監査部門のどんな点が指摘事項に該当し、どう改善すべきなのか? 具体的なケースについて、その判断基準と是正措置などを説明した。

山根氏 「BCGの方々は高圧的な態度が一切なく、内部監査担当者と良好な関係を築いてくれました。丁寧に指導してくれるので、当社のメンバーも非常にやりやすかったと思います」

内部監査のナレッジを共有する機会は他にもある。毎月1回の定例報告会だ。出席者はBCGチームと内部監査室の計4名。ときには代表の山根氏も同席し、内部監査の進捗状況や課題などを確認した。その際に、改めて不明点を解消したという。

BCG谷口氏 「日々の監査実務と月次の報告会を通じて、内部監査室の方々の理解が深まっていきました。最終的な報告書をまとめた期末には、引継ぎの不安を感じませんでしたね」

山根氏 「今期は当社だけで内部監査を行っています。前期の計画書や手続書などの書類一式がそろっているので、それほど難しくはありません。他部署のメンバーにも兼務してもらい、クロス監査を実施しています」

INTERVIEW

中立的な株価算定を通じて、ステークホルダーの利害を調整

2024年1月から申請期がスタート。前年に地元の信用金庫からCFOを迎え入れており、準備は万全のはずだった。しかし、新たな問題が起こる。第三者割当増資による資金調達を行うため、ステークホルダーの利害を調整する必要が生じたのだ。出資者は大阪中小企業投資育成。投資先の安定株主として、中堅・中小企業の成長を支援する公的機関だ。

NICSは2022年に別の出資者から資金を調達した経緯があり、今回もその際と同じ引受価額(1株あたりの買取金額)を予定していた。しかし、この株価は当時の企業価値をもとに算定されたもの。証券会社はその後の業績伸長やTPMの投資家ニーズなどを考慮して、より高い公開価格を見込んでいた。

NICSにとって、新たな出資者も証券会社も重要なステークホルダー。どちらか一方に肩入れせず、双方が納得できる落としどころを見つけたい。そこで再びBCG谷口氏に相談し、バリュエーション(企業価値評価)を依頼。中立的な立場から、適正な株式価値を算定してもらった。

山根氏 「BCGは多数の公認会計士を抱えており、バリュエーションの実績も豊富です。対外的な信頼性が高いので、『BCGが算定した株価なら妥当だろう』と関係者が受け止めてくれます。実際、その株価が基準となり、出資者と証券会社に歩み寄ってもらえました」

同年4月、大阪中小企業投資育成を引受先とする第三者割当増資が決定。NICSは総額1,800万円の資金を調達し、経営基盤を強化した。

INTERVIEW

助言だけではなく、質の高い成果物を出すコンサル会社

株価をめぐる協議と並行して、J-Adviserによる上場審査も進む。内部監査に関する指摘は受けなかったが、それ以外にも上場適格性に関する確認事項は多い。NICSは関連当事者取引の整理、新たな会計基準の導入など、さまざまな審査対応に追われた。

その後は多数の指摘事項を解決し、上場審査を通過。2024年8月、TPMに株式を上場した。岡山県では23社目の上場企業。改めて振り返ると、BCGはどのような役割を果たしたのだろうか?

山根氏 「世の中には口先だけのコンサル会社もありますが、BCGは違います。当社の困りごとに親身に対応し、質の高いアウトプットを出してくれました。しかも、IPOに関する支援範囲が幅広い。関係機関の紹介や株価算定も含めて、非常に助かりました」

BCG谷口氏 「お金をいただいている以上、不備のない成果物を提供するのは当然です。クライアントの企業規模によって、対応を変えることもありません。そのうえで『地元企業を応援したい』『信頼に応えたい』という私自身の想いもありました」

上場企業として、新たなスタートを切ったNICS。その信用力を背景に、新規顧客の開拓や人材採用を推進。成長分野である港湾物流システムの開発を拡充する予定だ。その先には、一般市場へのステップアップ上場も見据えている。

山根氏 「当社はムリのない成長を続けながら、一般市場をめざします。その際はJ-SOX対応が必要なので、改めて谷口さんに相談しているところです。今後もBCGとは長いお付き合いをしたいですね」

取材・執筆/高橋 雄輔

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