創業60年以上の中堅企業がIPOを達成! 短期間で内部管理体制を構築できたワケ
2023年8月、創業60年を超える部品メーカーが東証グロース市場へ上場した。国内トップシェアのコンベヤ部品事業にくわえて、成長分野のロボットSI事業を展開する株式会社JRC (https://www.jrcnet.co.jp/、以下、JRC)だ。その上場準備を支えたのがブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)である。
JRCは2020年10月からBCGに支援を依頼。社内規程の整備、J-SOX(内部統制報告制度)の整備・文書化、内部監査の計画策定などを一括でアウトソーシングした。その結果、半年足らずで内部管理体制の基盤が整い、早期に自走できるようになったという。どのように外部の専門家を活用して、上場を実現したのか? IPO推進のリーダーとBCGのプロジェクトマネージャーに取材し、上場準備の実像にせまる。
2010年、新日本有限責任監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)に入所。監査業務・デューデリジェンス・事業再生などの財務アドバイザリー業務に従事する。2015年にデロイトトーマツコンサルティング合同会社に入社し、経営戦略の立案やM&Aアドバイザリーを行う。2017年にインテグラル株式会社へ入社し、プライベート・エクイティ投資業務に従事。ディレクターとして、投資先企業の企業価値向上をハンズオンで支援する。2020年、投資先となる株式会社JRCに出向。IPO推進のリーダーとして、東証グロース市場へ上場に導く。2024年4月、同社に入社。現職に就任し、経営管理全般、全社戦略立案、M&Aを担当。同年6月より、グループ会社の代表取締役社長も兼務。
有限責任あずさ監査法人に10年以上勤め、おもに監査業務と株式上場支援業務に従事する。また、デューデリジェンスやシステム導入支援などの多様なコンサルティング業務も経験。2020年、ブリッジコンサルティンググループ株式会社に入社。IPO準備企業を中心に、累計数十社を支援する。決算開示、IFRS導入、FAS業務(デューデリジェンス・株価算定など)、内部監査、J-SOX対応など、幅広い支援を担当。これまでに6社がIPOを達成。変化を恐れずに現状打破を続ける企業に寄りそい、共に成長するために、固定観念にとらわれない本質的な価値提供をめざす。モットーは「成長こそが幸せである」。
新規事業に将来性を感じ、ファンドとIPOをめざす
JRCの創業は1961年にさかのぼる。浜口匠氏が前身の「浜口商店」を創業し、コンベヤ製品の製造・販売を開始した。その後は全国の拠点開設を経て、1989年に転機が訪れる。当時の本社工場にローラ自動組立ラインを導入し、高品質な製品の増産体制を整えたのだ。
この設備投資を機に、同社は市場シェアを拡大。国内における屋外用ベルトコンベヤ部品のニッチトップ企業に成長した。その後、2014年に創業家の浜口稔氏が代表取締役社長に就任。顧客の課題を解決するソリューション営業などを推進し、業績を拡大する。
次なる転機は2018年。自社工場の自動化で培ったノウハウを活かして、ロボットSI事業を立ち上げたのだ。この新規事業に将来性を感じ、同社はIPOを計画。会社を永続的に発展させるために、創業家のプライベートカンパニーではなく、社会に開かれたパブリックカンパニーをめざした。
2019年から、JRCはIPOのパートナー探しに取り組む。以前に自社だけで上場準備を進めるも、ノウハウ不足や市場環境の変化などで断念した経緯があったからだ。そして2020年1月、独立系PEファンドのインテグラルが資本参加。同社の常川陽介氏がJRCに出向し、執行役員IPO推進室長に就任した。同氏は大手監査法人を経て、総合系コンサルティングファームで顧客企業の成長を支援してきた実績をもつ。
常川氏 「IPO推進室は社長直轄の新設部署です。私が上場準備を主導し、証券会社や監査法人の選定などを進めました」
コンサル選びのポイントは“プロジェクトマネジメント力”
当時のIPO推進室は常川氏ひとり。内部管理体制を整備するためには、専門的な人材が不足していた。財務・経理部門の採用活動は順調に進むも、上場準備のノウハウをもつ会計士らの採用は容易ではない。そこで有力なIPOコンサルティング会社をリストアップして、比較検討を経て、BCGへの依頼を決めた。同社のプロジェクトマネージャーは大阪事務所の所長も務める岡田勇輝氏である。
常川氏 「どの会社に頼むにせよ、管理者の下に実務担当者がいます。最大のポイントは、そのプロジェクトマネジメントです。BCGの岡田さんと実務担当者とお話しして、この人たちならやってくれると感じました」
BCG岡田氏 「当社は会計士の派遣会社ではありません。※パートナー会計士に丸投げせず、しっかり関与してプロジェクトを遂行する旨をご説明しました」
各拠点の独自ルールの共通項を拾い上げ、社内規程を整備
2020年10月、BCGによるIPO支援が始まる。当初の計画では翌年3月から直前期に入るため、猶予は許されない。内部監査の運用などを開始すべき期首まで、半年足らずの状況だった。
まずは社内規程の整備から着手する。何十年も前に作られた規程と実態が乖離し、全国の工場や営業所ごとに異なるルールが運用されていたからだ。それらは各拠点に部分最適化されたマニュアルのような文書であり、統一的な社内規程ではない。
とはいえ、現場の社員たちには会社の成長を支えてきた自負がある。頭ごなしに既存のルールを全面改正すると、無用の反発を生みかねない。そこでBCGは各拠点の担当者に対して、業務プロセスや運用ルールを丁寧にヒアリング。それらの共通項を見つけ出し、現場の実務に即した社内規程にまとめあげた。
BCG岡田氏 「各拠点へのヒアリングはオンラインも組み合わせながら、常川さんや本社の方に同席してもらいました。その際に明らかになった点も多く、本社と各拠点の相互理解につながったと感じています」
常川氏 「当時の私は出向してきたばかりの新参者です。仮に各拠点のルールに不備が見つかっても、その理由を責任者から背景を含めて聞き出すのは難しい。仮に社内の人材にヒアリングを担当してもらっても、そこに社内の上下関係があると、なおさら聞けません。一方、BCGは外部のプロフェッショナルとして、的確にヒアリングしてくれます。おかげで社内にハレーションが起きることなく、改善点を洗い出せました」
各拠点のヒアリングをもとに「J-SOXの3点セット」も作成
社内規程の整備と並行して、BCGはJ-SOXの文書化も支援。各拠点のヒアリング内容をふまえて、3点セット(業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクス)などの原案を作成した。これら一連の文書化には、JRCの業務に対する深い理解が必要である。
常川氏 「規程整備とJ-SOXの文書化は密接に関連しています。そのため、同じ方に担当してほしいとBCGに依頼していました」
一方、IT統制の分野は高い専門性が求められる。JRCは大規模な基幹システムを導入しており、大量の文書化も必要だった。BCG岡田氏は2名のパートナー会計士を手配し、これらを統合的にマネジメント。IT監査の経験豊富な会計士がIT統制に関する文書化を担当し、それ以外の全分野をもうひとりの会計士が一気通貫で担当した。
子会社の社内規程も整い、期首の2021年3月から内部監査が始まる。社長直轄の「内部監査室」を設置し、各部署の役割を理解する古参社員が配属された。ただし、同室長に内部監査の経験はない。そこでBCGが内部監査の基本計画書と手続書(チェックリスト)の作成を支援。計画通りに内部監査を実施すれば、問題なく運用できる体制を整えた。
その後は改善指示や改善状況のモニタリングも含めて、内部監査室が一連の業務を遂行。BCGは黒子に徹し、内部監査に関する問い合わせなどに対応した。
常川氏 「いまでは自走できるようになりましたが、最初はゼロから教えてもらうようなレベルです。内部監査室長もBCGのサポートに感謝していました」
厳格な証券審査でも、内部統制・内部監査に関する指摘は少数
コロナ禍による上場延期を経て、JRCは2023年3月に申請期を迎える。主幹事証券会社による引受審査では、内部管理体制に対する厳しい指摘が相次いだ。その大半は労務管理やコンプライアンスに関するもの。内部統制や内部監査に関する指摘事項は数えるほどしかなかった。
常川氏は外部の専門家と協力しながら、それらの対応に注力。課題を一つひとつ潰し、数ヵ月間にわたる引受審査を乗り越えた。この難所を経ると、東証の公開審査が驚くほどスムーズに進んだという。
BCG岡田氏 「当社は2021年12月に支援を終えています。JRCの方々が当社の成果物をブラッシュアップして適切に運用したからこそ、上場審査を通過できたのでしょう」
2023年8月、JRCは東証グロース市場に新規上場を果たす。BCGの支援終了から2年弱。その本質的価値は、どこにあったのだろうか?
常川氏 「最大の価値は、上場準備の“発射台”に乗せてくれたことです。J-SOX対応も内部監査も、立ち上げに大変な労力がかかります。また、上場審査の傾向や他社の事例を理解していないと、どこまでやればいいのかわかりません。それらが適切にできたのは、実績豊富なBCGだからこそ。岡田さんのプロジェクトマネジメントも期待通りでした。もしも当社だけで取り組んでいたら、これほど順調には進まなかったでしょう」
BCG岡田氏 「ありがたかったのは、規程整備・内部統制・内部監査をまとめてご依頼いただいたことです。関連性の強い3分野をワンストップで支援したからこそ、半年足らずで内部管理体制を構築できました」
上場はゴールではなくスタート。株主に対する重責を果たす
株式上場による信用力や認知度の向上を追い風にして、JRCは事業拡大を続ける。主力のコンベヤ部品事業では、好調なソリューションビジネスを強化。全国の代理店網を活用し、さらなる顧客開拓を進めている。
高成長が期待されるロボットSI事業では、2024年2月期に初の黒字化を達成。中村自働機械や三好機械産業といったロボット関連企業のM&Aを推進し、ロボット自動化コンソーシアム(共同事業体)の確立をめざしている。
ファンドから出向していた常川氏は、今年4月にJRCへ転籍。「取締役CFO兼CSO兼戦略投資部長」という広範な役割を担い、決意を新たにする。
常川氏 「当社は専門家の力を借りて、IPOを達成できました。上場準備よりも大変なのは上場後です。私はCFO兼CSOとして、中長期的な成長につながる戦略を立案・推進しなければなりません。今後も事業運営の透明性を担保しながら、企業価値の向上に力をつくします」
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