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2024年07月18日

外注と内製を機動的に使い分け、IPOを実現。内部監査の責任者が交代しても、十分な品質を担保する

2024年4月、あるエネルギーテック企業が東証グロース市場へ上場した。分散型エネルギー事業、グリーンエネルギー事業、エネルギーDX事業を展開するレジル株式会社(https://rezil.co.jp/、以下、レジル)だ。その上場準備を支えたのがブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)である。

レジルは2020年8月から、BCGに内部管理体制の整備・運用支援を依頼。内部監査やJ-SOX(内部統制報告制度)対応などをアウトソーシングし、専門ノウハウと人的リソースを補完した。その特徴は「当事者/第三者」の両義性をもつ伴走者を確保したこと。そして「外注/内製」の二者択一ではなく、状況に応じた委託範囲の調整にある。どのようにアウトソーサーと連携して、IPOを実現したのか? 内部管理体制の整備・運用に携わってきたキーパーソンを取材し、上場準備の舞台裏にせまる。

レジル株式会社 取締役 監査等委員 清田 宏
レジル株式会社 取締役 監査等委員 清田 宏

1993年に株式会社三和銀行(現:株式会社三菱UFJ銀行)へ入行し、法人向け融資業務などに20年以上従事。2016年以降はコンプライアンス統括部企画グループ、グローバル金融犯罪対策部企画グループおよびグローバル金融犯罪対策室総括グループにて、コンプライアンスを中心とした行内の体制・ルール整備や海外金融当局対応などに従事。2021年7月、中央電力株式会社(現:レジル株式会社)に内部監査室長として出向。2022年1月に同社へ転籍し、内部監査グループのジェネラルマネージャーに就任。2023年3月より現職。

レジル株式会社 内部監査グループ ジェネラルマネージャー 宮原 恵介
レジル株式会社 内部監査グループ ジェネラルマネージャー 宮原 恵介

2013年6月、中央電力株式会社(現:レジル株式会社)に入社。マンション一括受電サービス事業(現:分散型エネルギー事業)、電力小売事業(現:グリーンエネルギー事業)、電気保安事業など、多数の事業部門の業務に携わり部門責任者や業務改善の責任者を歴任。2023年4月、清田氏の後任として内部監査グループのジェネラルマネージャーに就任。内部管理体制の整備・運用の責任者として、同社の上場準備を支える。

レジル株式会社 内部監査グループ マネージャー 本郷 美典
レジル株式会社 内部監査グループ マネージャー 本郷 美典

2020年4月、中央電力株式会社(現:レジル株式会社)に新卒入社。マンション事業本部新規事業開発部(現:分散型エネルギー事業本部領域企画グループ)にて、新規サービスの営業支援、運用及び顧客へのアフターフォロー業務などに従事する。2023年6月、内部監査グループのマネージャーに就任。BCGの支援を受けながら、監査実務に取り組む。

INTERVIEW

事業開発の資金・人材を確保するため、IPOをめざす

創業30年を数えるレジルの道のりは、事業開発と課題解決の歴史でもある。1994年の省エネ・コスト削減コンサルティングから始まり、2004年にマンション一括受電サービス(現:分散型エネルギー事業)をスタート。2016年には新電力として電力小売事業(現:グリーンエネルギー事業)に参入した。更に当社が培ってきたノウハウやテクノロジーをエネルギー関連企業に外販するエネルギーDX事業を2021年から本格的に展開を開始している。

業績も順調に推移していたため、2020年からIPOプロジェクトが始まった。株式を上場すれば資金調達手段が多様化し、新サービスの設備投資等が容易になる。さらに知名度や信用力が向上し、人材採用力の強化も期待できる。レジル(当時:中央電力)は上場基準を満たす内部管理体制の整備の一環として、同年4月に内部監査室(現:内部監査グループ)を設置した。

他部署の兼任者を含め、計2名で内部監査室はスタート。次第に人的リソースと専門ノウハウの不足が明らかになり、被監査部門とズレが生じ始める。たとえば提出を求める資料の範囲が判然とせず、各事業部の責任者を悩ませてしまう。ときには社内規程を厳格に解釈するあまり、現場を困惑させることもあったという。

そんな状況を打開するため、同社は内部監査とJ-SOX対応のアウトソーシングを計画する。多数の業者に声をかけ、有力6社の提案内容を精査。上場支援の実績や柔軟性など10項目のチェックポイントを3段階で評価し、もっとも総合評価の高いBCGに依頼した。

INTERVIEW

専門家の支援を受けて、内部管理体制を再構築

2020年8月、BCGによる支援が始まる。同社のプロジェクトマネージャーと複数の実務担当者(公認会計士)がチームを組成し、内部管理体制の整備から運用まで一連の業務を引き受けた。

まず内部監査においては、BCGが改めて監査計画から策定。内部監査計画書、内部監査手続書を作成するために、業務理解及びリスク評価を実施すべく、経営者ディスカッションや部署長へのヒアリング等を行った。その後、被監査部門に対する監査(ヒアリング・証憑閲覧等)も同社が主導し、内部監査報告書や業務改善指示書を作成。こういった業務全体の模範を示し、内部監査室に基本的手順とノウハウを伝えていった。

その後、2021年7月に清田宏氏が2代目の内部監査室長に就任。翌年には同室の専任メンバーも加わり、段階的に内製化を進めていく。内部監査の計画策定など全体的な枠組みは前年度を踏襲しBCGに依頼したまま、監査実施・業務改善通知・フォローアップ監査などの実務を徐々に社内に移管していったのだ。

もうひとつのJ-SOX対応に関しては、フルアウトソーシングを選ぶ。この分野は金融商品取引法に基づいており、小さなミスが大きな問題になりかねないからだ。またIT統制をはじめ、高い専門性も要求される。そこでBCGは複数の公認会計士を手配し、3点セット(業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクス)やIT全般統制のリスクコントロールマトリクスなど、J-SOX対応に必要な成果物を文書化。その後の整備状況・運用状況の評価についても、同社が主導していく。

ただし、外部への丸投げではない。内部監査室が全体の司令塔となり、BCGからの要請や複雑なコミュニケーションを交通整理。該当部署に対する同種の依頼事項を一本化し、内部監査との業務重複を防いだ。また、各部署の多忙な時期を避けて連絡し、証憑書類などを円滑に収集していった。

INTERVIEW

BCGが橋渡し役になり、内部監査のノウハウを継承

上場の申請期を目前にして、レジルは軌道修正を余儀なくされる。2023年3月に清田氏が監査等委員に就任し、7月に内部監査担当者の退職が決まったのだ。後任への引き継ぎは行われるものの、性急な内製化は監査品質に悪影響を及ぼしかねない。

清田氏 「もともと申請期には、内部監査を完全に内製化する予定でした。しかし当社の監査責任者と担当者が総入れ替えになるので、ソフトランディングのために方針を転換。私も当然引継ぎを行い、引き続き社内に常勤はするのですが立場を変える必要もあり、掛かりきりになることは避ける必要がありました。その為継続性を確りと保つべく改めてBCGに支援範囲を見直しつつ契約の継続を依頼することにし、蓄積してきたノウハウをBCGからも実務を進めながら新任のメンバーたちに伝えてもらうことにしたのです」

清田氏からバトンを受けたのは、古参社員の宮原恵介氏である。長年所属してきた事業部門を離れ、内部監査グループの責任者に就任した。その後、同グループの専任メンバーとして、若手の本郷美典氏が配属される。当時のレジルは社名変更や組織改編など、第二創業への転換期。企業文化や働き方などが劇的に変化した影響もあり、人材の流動性が高い時期だった。

宮原氏 「どの会社にも組織改編や人事異動はありますが、内部監査の継続性は重要です。当社は同じ方に内部監査の支援を続けてもらっているので、十分な品質を担保できました。内部監査の経験がなく専門的な知見が不足している状況で着任した私が1年間やってこられたのは、BCGのおかげですよ」

若手の本郷氏にとっては、同社独自の枠組みが好影響をもたらした。それは20以上の部署と2つの子会社を4つのフェーズに分類し、それぞれの監査時期をずらしていることだ。つまり、内部監査のPDCAサイクルは年1回ではなく、4回に区分されている。その短期サイクルとBCGのサポートが組み合わさり、内部監査業務を早期キャッチアップでき、自身の成長にもつながったという。

本郷氏 「私は2023年7月に内部監査グループに入ったばかり。被監査部門に小さな変化が起きていても、ヒアリング時に気づけません。そんなときにBCGの担当者がヒアリングに同席し、適切な質問を追加してくれるので、実効性のある情報収集ができます。それが気づきになり、次のフェーズでは最初から確認する意識が生まれました」

INTERVIEW

“伴走者”の特性をアピールし、上場審査の懸念を払拭

支援を担当したパートナー会計士の永見氏(左から1番目)とブリッジコンサルティンググループの徳川(左から5番目)

IPOには上場申請書類も欠かせない。Iの部や各種説明資料など、上場申請書類の作成もBCGがサポート。上場準備の伴走者としてレジルの概況を把握していたので、適切な申請書類の作成に寄与した。

必要な書類がそろい、あとは2種類の上場審査を残すのみ。主幹事証券会社による引受審査、そして証券取引所による公開審査である。この最終関門において、レジルは同様の懸念にもとづく質問を何度も受けることになる。そのキーワードは内部監査の「継続性」と「質的な十分性」だ。

清田氏 「当社は申請期の直前に内部監査の責任者が交代し、数ヵ月後に担当者も代わっています。そこは目立つポイントなので、問題がないかを必ず尋ねられました」

宮原氏 「まず臨んだのは証券審査です。BCGによる支援は2020年から続いているので、自信をもって内部監査の継続性と質的な十分性を説明できました。次の東証審査においてはアウトソーサーに過度に依存していない点を補足しつつ、内部監査の客観性・確実性・有効性などをアピール。こういった上場適格性に関して、明快に回答できたのは大きかったですね」

清田氏 「BCGの名前を出せばお墨つきがもらえるわけではありませんが、当社の本気度や一定以上の品質を客観的に裏づける材料にはなります。もしも上場のために体裁を整えたいだけなら、お金をかけて社外の専門家に依頼等はしないでしょうから」

INTERVIEW

義務を果たすだけでなく、価値を生む内部監査へ

レジルは東証グロース市場への新規上場が承認され、2024年4月にIPOを果たした。そして、株式市場から調達した資金をもとに「マンション防災サービス」の設備投資を強化。主力の分散型エネルギー事業の成長を加速させながら、脱炭素に貢献するプラットフォームの構築をめざす。

それは蓄電池の制御技術やデジタル技術を活用して、マンションやビルなどに設置した多数の分散型電源設備をネットワーク化する仕組み。この巨大な仮想発電所をAIで制御して、再生可能エネルギーの最適化を図るという。IPOによる知名度や信用力の向上も、この構想の実現を後押しするだろう。

上場はゴールではなく、新たなスタート。これからも内部管理体制の運用は粛々と続いていく。同社はJ-SOX対応をアウトソーシングしながら、改めて内部監査の内製化を進める予定だ。それは義務的・受動的な業務ではなく、価値を生み出すための能動的な取り組みである。

宮原氏 「被監査部門として内部監査を受けていた際は、“上場のために必要だから”という義務感で対応していました。立場が変わり内部監査の本質を理解するにつれて、そのポテンシャルの高さに気づいたんです。私たちは多数の部署に横串を刺して、全社的な課題を把握したり、業務プロセスを効率化したりできる。内部監査部門として上場はスタート地点であり、まだまだやれることはたくさんありますよ」

取材・執筆/高橋 雄輔

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