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2024年05月10日

アウトソーシングを活用して、効率的に内部管理体制を構築。計画通りのIPOを果たす

「プロ人材に、なれる」をスローガンに掲げ、成長を続ける株式会社ナレルグループ。純粋持株会社として、建設業向け技術者派遣の株式会社ワールドコーポレーション、ITエンジニア派遣の株式会社ATJC、人材プラットフォーム運営の株式会社コントラフトを統治・管理している。

同社は2021年2月からブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)の支援を受けて、内部管理体制を構築。社内規程の整備、J-SOX(内部統制報告制度)対応、内部監査などをアウトソーシングした。そして計画通り、2023年7月に東証グロース市場へ上場を果たす。なぜ外部委託を活用したのか? どのように連携して、上場審査を乗り越えたのか? 創業経営者と上場準備のキーパーソンに取材し、IPOまでの道のりを振り返る。

株式会社ナレルグループ 代表取締役 小林 良
株式会社ナレルグループ 代表取締役 小林 良

輸入時計卸売会社やホテル会員権の販売会社を経て、2008年に株式会社ワールドコーポレーションを設立。 代表取締役に就任し、建設業向け人材派遣事業を営む。2019年、持株会社である株式会社ナレルグループ(当時:株式会社AP64)を設立。 2023年7月、同社が東証グロース市場に新規上場。

株式会社ナレルグループ 執行役員 野尻 悠太
株式会社ナレルグループ 執行役員 野尻 悠太

2006年にみずほ証券株式会社へ入社し、投資銀行業務に従事。2009年より宇宙スタートアップの株式会社アクセルスペースにて、CFOやCOOなどを歴任。AIスタートアップの株式会社JDSCを経て、2020年に株式会社ワールドコーポレーションへ参画。持株会社体制への移行にともない、2021年に株式会社ナレルグループに転籍。取締役コーポレート本部長等を歴任し、上場を主導。2024年2月より現職。

株式会社ナレルグループ 執行役員/コーポレート本部 本部長/ファイナンス統括室 室長/下村 晶
株式会社ナレルグループ 執行役員/コーポレート本部 本部長/
ファイナンス統括室 室長/
下村 晶

2006年株式会社みずほ銀行に入行。フロンティア・ターンアラウンド株式会社(現フロンティア・マネジメント株式会社)を経て、2021年に株式会社ワールドコーポレーションに参画。同年ナレルグループに転籍、コーポレート本部の次長として、上場準備の中心的役割を担う。2024年2月より現職。

INTERVIEW

順調な事業成長の裏側で、上場準備に挫折

ナレルグループの原点は2008年。代表の小林良氏がワールドコーポレーションを設立し、建設業向け技術者派遣事業を開始した。そして、2013年に最初のターニングポイントが訪れる。即戦力となる経験者中心の採用から、未経験人材を採用・育成する方針に転換したのだ。

このビジネスモデルが市場に適合し、同社の業績は急成長。2014年の東北支店を皮切りに、全国展開を進めていく。その勢いで2016年から上場準備に取り組んだものの、翌年には頓挫したという。

小林氏 「当時は内部管理体制を疎かにしていたので、証券会社からの多数の指摘事項に対応しきれなかったんです。いま思えば当然の指摘なんですが、私も感情的に反発してしまって。中途半端に上場準備を終わらせてしまいました」

もともと小林氏はトップセールスマン。起業後も売上に直結する営業部門を最重視し、管理部門はコストセンターのように認識していた。少数精鋭の管理部門に属していた藤巻きよ美氏は、苦労の日々を振り返る。

藤巻氏 「当時は上場準備のために、さまざまな社内規程や業務プロセスが追加・変更されました。でも煩雑な手順ばかりが増えて、現場の負担は重くなる一方。内部統制の本質的な意味が理解できぬまま、残業続きの1年間が過ぎ去りました」

INTERVIEW

経営のコア人材を補強しつつ、専門的な業務を外部委託

内部管理体制が未整備でも、同社の業績は伸び続ける。若手技術者の全国的な需要に応えるためには、採用力のさらなる向上が欠かせない。小林氏は改めて上場準備を決意し、新たなパートナーの力を借りる。

小林氏 「私が前面に立つと、同じ轍を踏みかねません。そこで2019年にPEファンドの資本を受け入れ、管理体制の強化を図りました。売上や利益を上げる基盤は整っていたので、上場のボトルネックはそこだけでしたね」

その後は株式上場を見据えて、現在のナレルグループである持株会社を設立。2020年には、複数のスタートアップでCFOやCOOを歴任してきた野尻悠太氏を招聘した。入社当時はCFOロールで入社した同氏が、取締役コーポレート本部長に就任し、上場準備の陣頭指揮をとる。アウトソーサーの活用も同氏の発案だった。

野尻氏 「上場準備は数年間の特別プロジェクトです。高い専門性が求められますが、優秀な公認会計士を雇用すると上場後も相応の報酬とポストを用意しなければなりません。必要なときに必要なリソースを確保するために、IPOコンサルティング会社の活用を検討しました」

複数社の比較検討にあたって、野尻氏が重視したポイントは3つ。支援範囲、価格、そして評判だ。多数のIPOコンサル会社と組んできたPEファンドからも情報を収集し、候補はBCGに絞られる。最終判断は創業経営者の小林氏が下した。

小林氏 「ファンドが大株主になったので、後戻りはできません。もしもズルズルと上場延期が続いたら、IPO以外のEXITが求められかねない。確実に株式上場を実現するために、迷わずBCGに依頼しました」

2021年2月から、BCGによるIPO支援が始まる。同社のプロジェクトマネージャーと実務担当者(公認会計士)がチームを組成し、内部管理体制の整備をワンストップで提供した。時を同じくして、コンサルティング会社出身の下村晶氏がナレルグループに参画。コーポレート本部の次長として、上場準備の中核を担うことになる。

INTERVIEW

煩雑な手順を増やさず、整理された内部統制を実現

内部管理体制を構築するための第一歩は、社内規程の整備だ。BCGが大量の原案を作成し、ナレルグループが自社の実情に照らして細部を検討していく。野尻氏や下村氏はもちろん、経営企画室や総務部からの意見も聴取し、最適なルールを模索した。それらの多様な意見を集約し、BCGが修正案を取りまとめる。約8ヵ月間の濃密な協議を経て、ナレルグループと子会社の諸規程が完成した。

次はJ-SOXに対応するため、各種業務フローの整備に取りかかる。いわゆる3点セット(業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクス)の原案をBCGが作成。下村氏が関係部署を巻き込みながら、統制上の不備をBCGと修正していった。上場準備の苦い経験を覚える藤巻氏は、以前との違いに驚いたという。

藤巻氏 「内部統制と聞いて、また煩雑な手順が増えると覚悟していたんですよ。でも拍子抜けするくらい、現場の実務は変わりませんでした。むしろ複雑な業務プロセスが整理されて、事業部門のメンバーに説明しやすくなったくらいです」

下村氏 「IT統制の分野も助かりましたね。当社に情報システムの担当者はいますが、内部統制に詳しいわけではありません。BCGの専門的な知見のおかげで、抜け漏れなく整備できました」

INTERVIEW

全国6拠点の内部監査をBCGが強力にサポート。リソース不足を補う

J-SOX対応と並行して、内部監査の体制構築も進めていく。代表取締役の直下に「内部監査室」を設置し、下村氏を含む2名が配属された。ただし、両名は他部署の職務を兼ねており、内部監査のみに専念できる状況ではなかった。

一方、ナレルグループは3つの子会社を保有し、主力のワールドコーポレーションは6つの拠点を全国に展開している。それらの全事業所を円滑に回るために、BCGがアドバイザリーやノウハウ共有に留まらず、内部監査の計画・実施・報告などの実務面を強力に支援したのだ。

内部監査においては、監査等委員会とのコミュニケーションも重要になる。BCGは監査役(監査等委員)と信頼関係を構築し、適切な情報共有や意見交換を行った。

下村氏 「BCGの担当者は成果物のクオリティが高いだけでなく、人間的な魅力も備えていました。監査役(監査等委員)と良好な関係を築いてくれたので、私たちもやりやすかったですね」

藤巻氏 「当時の私は内部監査の専門知識が皆無でした。BCGのサポートなくして、室長の職責は果たせなかったでしょう。わかりやすく説明してもらい、本当に助かりました」

順風満帆に進む上場準備。内部統制報告書に対して、監査法人から不備を指摘されることもなかった。さらにIの部や各種説明資料など、上場申請書類の作成もBCGがサポート。準備は万全のはずだった。

しかし、審査終盤において「特命監査」が必要となったのだ。これは年度計画に基づく通常の部署別監査ではなく、特定の事象やリスクに対する抜き打ち監査。同社のコンプライアンス体制の一部について、速やかに調査・報告する必要が生じた

野尻氏 「『特命監査』の必要が生じたのは2022年12月。上場予定時期まで、半年ほどしか残されていませんでした。それにもかかわらず、通常の内部監査におけるBCGのサポートがあったため、社内のリソースを特命監査に振り分けられることができたため、なんとかこれを乗り越えられました。社内のリソースだけでは、短期間で対応できなかったでしょう」

INTERVIEW

上場審査の合格ラインを把握し、過不足なく効率的に準備

その後は引受審査も上場審査も難なく通過。ついに2023年7月、ナレルグループが東証グロース市場へ上場を果たした。BCGの支援開始から約2年半。アウトソーシングの本質的価値は、どこにあったのだろうか?

下村氏 「最大の価値は、上場審査の合格ラインを把握できた点です。内部統制も内部監査も、実質基準の詳細は明示されていません。基準を下回ると審査を通りませんが、完璧を求めると膨大な時間と人的リソースが必要になります。BCGは上場支援の経験が豊富なので、ちょうどいい塩梅を助言してもらえました」

野尻氏 「仮に社内で全タスクを処理するなら、あと1~2名はコーポレート本部に必要です。もしくは、上場のスケジュール全体が遅れていたでしょう。専門家に依頼するのは、正しい判断でしたね」

小林氏 「上場延期のリスクを考えると、今回は100点満点の出来です。私は要所を確認していただけなので、一切ストレスを感じていません。すべてBCGと当社のメンバーのおかげですよ」

同社は上場後もBCGの支援を受け続け、IPOによる知名度向上や資金調達をテコにして、建設業向け技術者派遣の分野において、業界トップをめざす。取材の最後に、上場準備に取り組む経営者へアドバイスを求めた。

小林氏 「本気でIPOを実現したいなら、人への投資を惜しんではいけません。つまり、管理部門に優秀な人材を招聘・登用し、適切なアウトソーサーの力を借りる。あとは現場を信頼して、社長がうるさく言わないこと(笑)。そうすれば、上場の可能性は飛躍的に高まるでしょう」

取材・執筆/高橋 雄輔

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