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IPOに向けた法令・ガバナンス上の実務的課題【村田雅幸×尾下大介】

本対談では、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)にて執行役員として上場推進業務などに携わっていた村田雅幸氏と、東証(日本取引所自主規制法人)の上場審査部初の弁護士として上場審査業務に携わっていた弁護士の尾下大介氏をお招きした。お2人とも現在は東証を離れIPO準備企業の支援をされているということで、東証の視点をふまえつつ、日ごろ接しているIPO準備企業の実情に即して、IPOに向けた実務的課題についてお話をうかかがう。

PUBLIC GATE LLC. 代表 村田 雅幸
PUBLIC GATE LLC. 代表 村田 雅幸

1991年株式会社大阪証券取引所に入所。2003年に執行役員、取引所の統合に伴い13年に東京証券取引所執行役員に就任。 上場審査業務、上場推進業務、デリバティブ業務などに従事。18年4月にIPOプロデュース事業を目的として合同会社を設立して独立。


CrossOver法律事務所 代表 尾下 大介
CrossOver法律事務所 代表 尾下 大介

弁護士・ニューヨーク州弁護士、公認会計士。2009年弁護士登録。長島・大野・常松法律事務所(09年〜19年)、Nagashima Ohno & Tsunematsu NY LLP(15年〜17年)、株式会社東京証券取引所(日本取引所自主規制法人)上場審査部出向(17年 〜19年)。現在はIPO準備企業・上場企業への助言の他、複数の大手証券会社、VC・PEファンドへの助言実績多数。

赤字上場の実現性

司会:さて、早速ですが、2019年のIPOを振り返ると赤字上場が非常に多かったことが大きな特徴でした。日本経済新聞2019年11月27日朝刊によれば、直前決算期が最終赤字だった新規上場企業の比率が約2割であり、過去10年間で最高だったとのことです。

尾下:はい。私も、IPO準備企業の経営者やVC 等の出資者から、「赤字上場が簡単に認めら れるようになったのか」と質問されることが 非常に多くあります。IPOに向けた今後のス ケジュールを展望するうえでも実務上関心が 高い点だと思いますが、村田さんはどうお考えでしょうか。

村田:昨年は日本にマザーズ市場が創設されて20年、今年はナスダック・ジャパン市場が創設されて20年という新興市場史の節目の年となります。20年前の上場基準では今の二部が新規上場の登竜門だったので、おおむね毎期5億円ぐらいの利益が出ている会社を対象に上場申請を受け付けていました。しかし、 2000年頃に米国NASDAQが日本に進出するという流れになり、一気に赤字上場もあり得るという風潮にがらっと変わりました。

短期的な赤字上場社数の増減という足元の変化ではなく、本来、20年という大きなうねりのなかで新興市場を総括していくべきだと考えています。実績がなく赤字続きの会社を取引所が無防備に株式市場に受け入れてしまうと、株式市場がベンチャーキャピタルなど未上場株に投資するプロ投資家のリスクを一般投資家に転嫁するだけの場所になってしまいます。私はマザーズ市場などで事業実績が顕在化する前の赤字上場が可能となったことは、課題がありつつも、新興市場として進化しており、よく機能しているとみています。

尾下さんは、東証の上場審査部に出向していた際のご経験もふまえ、赤字上場の審査などについてどういった印象でしょうか。

尾下:IPO業界では、たとえば、2019年前半頃までであれば「東証は年に〇社までしか赤字上場を認めないという経営方針だ」という話が、2019年後半からは「東証は赤字上場のハードルを下げる方向に舵を切った」という話が聞こえてきました。 けれども、今、村田さんの見解をうかがい、このような風説から聞こえるところとは大きく異なり、東証は大局的で本質的な視座を背景に持った判断をしていると理解することが重要なのだろうと改めて思いました。 東証はこのような視座を持ったうえで個々の新規上場申請会社の上場適格性をケース・バイ・ケースで実質的に判断しているのではないでしょうか。 間違っても「年〇社」というような、個々の新規上場申請会社の実態を無視したカテゴリカルな方針に基づく判断はしていないはずです。

村田:私も2年前に取引所を卒業して以来、IPOに関する風説というのは実に多いものだなあ、と実感しています。 取引所からすれば、上場申請があった会社について、フェアに是々非々で審査しているというだけなのですが、どうも外部からの見え方は違うようですね。 昨年あたり結果として赤字上場が多かった原因についてはどのようにお考えですか。

尾下:SaaS型のビジネスモデルが多かったからだという説明が説得的だと個人的には考えています。 上場申請の際は「赤字脱却の事業計画」が示されることが通常だと思いますが、SaaS型のビジネスモデルであればその事業計画の合理性を説明しやすいことが多かったのだと思うのです。 特に事業計画の収益面について、他のビジネスモデルと異なり、SaaS型は固定収入が積みあがっていくなかで解約率が非常に低いわけですから、右肩上がりの収益計画の合理性を説明することが相対的に容易であると思うのです。

今後は、「東証はSaaS型であれば赤字上場を容易に認める方針だ」という風説が回るような気もしますが(笑)、あくまでも個々の新規上場申請会社の上場適格性をケース・バイ・ケースで実質的に判断するであろうと思いますので、SaaS型かどうかがポイントではないわけです。IPO準備企業の経営者やVC等の出資者は、意思決定に際してこのような風説に惑わされるべきではないと思います。

村田:なるほど。私は、上場準備会社に対して、仮に現状赤字であったとしても、投資回収の経済性がみえているかどうか、そして事業の仕組みや運営面で「再現性」があるかを重視するよう助言しています。 ビジネスチャンスがあるのであれば、先行投資してより大きな成果を得てほしいというのが投資のダイナミズムだと思いますし、そういう企業の集積が新興市場の存在意義だと受け止めています。

「年次報告書」にみる内部管理体制の実務的問題

1. 内部管理体制の構築

司会:東証は、2018年度に上場申請後に上場承認に至らなかった会社の数が前年度から大幅に増加して46社であったことを公表しており、IPO業界で非常に大きな話題となっていました(「JPX自主規制法人の年次報告 2019」13頁参照。)IPO準備企業は年次報告書から実務上どのような教訓を学べばよいのでしょうか。

尾下:年次報告書は、上場承認に至らなかった理由として内部管理体制の不備をあげており、その具体的な内容として「各種法令への遵守体制や子会社管理等の業務上必要とされる管理体制、オーナー経営者に対する牽制体制の構築状況が不十分」であることを指摘しています。

私は2019年9月に上場審査部への出向を終えた後、多くのIPO準備企業に助言をさせていただいています。 もともと公認会計士としてIPO支援やJ-Sox支援も行っていましたので、 単なる法解釈の観点だけからではなく、内部管理体制の観点からIPO準備企業の診断をさせていただくことも多いのですが、内部管理体制上の不備を発見することが多くあります。

しかも、重箱の隅をつつくような小さな管理体制の不備だけではなく、大きな問題も多いのです。 東証の年次報告書が指摘する内部管理体制の不備の問題は、東証に上場申請をした企業だけではなく、多くのIPO準備企業が共通して抱える課題に通じていると感じているところです。

村田:上場審査を受ける会社側からすると、内部管理体制が未整備、脆弱と言われても、何が問題であるか理解しにくい面があるのではないでしょうか。

ベンチャー企業の経営には、経営トップのリーダーシップが不可欠だと思います。事業が上手くいっているときは、素晴らしい経営者として評価されるものの、何か問題が顕在化すると「内部管理体制ができておらず経営者が暴走した」と厳しく批判されてしまいます。その境界線をどのように考えるべきでしょうか。

尾下:実際に私が関与することになった先でも、事業活動の中核部分にかかる適用法令についてそもそも検討をしていない、あるいは不十分な検討しかしていないという事例が非常に多いです。 このような事例は、まさに東証が問題にしているように重箱の隅をつつくような小さな管理体制の不備ではなく、大きな問題の例だと思います。

司会:設立間もないベンチャー企業であればともかく、なぜ上場申請企業やIPO準備企業においてそのようなことが起こってしまうのでしょうか。

尾下:IPOを準備するということは、会計・開示面に限っても、税務会計一本でやっていた企業が、短期間で、連結財務諸表や有価証券報告書を作成する体制を構築するということでして、それだけで大変なことです。 しかしそれだけではなく、ガバナンス体制、反社チェック体制、法令遵守体制等、上場企業と同水準の体制整備に向けて取組むべきことは非常に多いわけですが、近年はあらゆる点で議論が複雑化し対応すべき内容も増えていると思うのです。 たとえば、ガバナンスの話に限ってもここ数年間で、新規上場企業であっても内部通報制度や独立社外取締役1名が事実上ほぼすべての会社で確認できる状況に変わっていったり、監査役等委員会設置会社へ移行する企業や任意の指名・報酬委員会を設置する企業も増えてきたりしているわけです。

IPO準備企業も、これを支える関係者たちも、大量の準備作業と新たな潮流に対応することに忙殺され、大きな視点から会社の個別の実態に即して内部管理体制を検証することができていないのではないのかと思います。

司会:実務的にはどのように対応をすればよいのでしょうか。

尾下:リスクアプローチの視点を意識した対応が重要です。内部管理体制は、管理のための管理体制ではなく、リスク管理のための管理体制であるはずです。 何がリスクかというのは会社ごとに違いますから、リスクを管理するための管理体制も会社ごとによって違いますし、リスクには高低差もあるわけですから管理体制の重要性もリスクの高低によってすべて異なるのです。 一歩立ち止まって会社の事業活動全般を見渡して、事業活動の中核部分の重要なリスクについてより慎重な検証を行ってきたかを考えてみるとよいと思うのです。

先ほど、事業活動の中核部分にかかる適用法令の遵守に問題がある事例に多く接しているといいましたが、そのような企業も、他の内部管理体制は十分に整っていたりするのです。 ただ、大量の準備作業に忙殺されてしまい、石橋をたたいて確認すべき事業活動の中核部分に適用される法令も、大量の準備作業の一環として、他と同程度の相応の確認にとどまっていたのではないでしょうか。

村田:なるほど。マザーズ市場を目指すような成長過程の会社の内部管理体制に関して、東証としてもどのレべルの組織体制を求めるべきかという点は悩ましいです。 ベンチャー経営では、一人で複数の役割をこなしながら、時には兼任することもあり得ます。また、先行する大企業に勝るにはスピード重視にならざるを得ず、時には臨機応変に一気にやり遂げるという仕事の仕方も必要です。

尾下:おっしゃるとおりだと思います。内部管理体制についても「東証は○○でないと絶対に認めない」といった風説を非常に多く耳にします。 しかし、赤字上場の問題と同様、内部管理体制の問題についても、東証は企業ごとにケース・バイ・ケースで実質的に判断していると理解をしたほうがよいと思うのです。 業種、業態、社会情勢、利益の依存度等、実態に応じて必要な内部管理体制を判断しているのであって、東証は、そのような前提を抜きにして全社に共通する唯一の真理のように「○○のチェックをしないと上場は認めない」というような議論はしていないと思います。

以上のようなリスクアプローチの視点を持って内部管理体制の構築・運用を進めていけば、このような風説に惑わされることなく、会社の実情に沿った管理体制を構築することが可能だと思われます。

2. 子会社管理体制の問題

村田:年次報告書は子会社管理体制の問題にも言及しています。M&Aで買収した会社が隠れた問題や負債を抱えていて、買収後にそれが顕在化するというパターンは割とあるように思いますが、それ以外にどのような問題があるのでしょうか。

尾下:他にもあらゆる問題のパターンが想定できると思います。ここでもリスクアプローチの視点が重要だと思います。 子会社管理体制についても、連結グループでみたときに企業価値に影響があるようなリスクを効果的に低減できているかという視点が重要であるのに、重要な部分に穴があるという例がさまざまなパターンでみられます。 なお、子会社管理につきリスクアプローチの視点が重要だという点は、2019年6月に経済産業省が策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」にも採用されている視点です。

村田:それは買収した会社に起こり得る問題なのか、それともグループから分離した会社の問題なのか。グループから分離した子会社は、多くの場合、実態面では○○事業部といった一事業部門と何も変わらないのではないかと思えます。

尾下:グループから分離した企業であっても、子会社自体の管理体制が不十分な場合は多くあると思います。 もちろん、子会社を単体でみたときに管理体制が十分に構築できないのは子会社の規模からしてやむを得ない場合もあるとは思うのです。 しかし、そのような場合は連結グループでの適切なリスク管理として、親会社の管理部門による牽制や親会社の内部監査や監査役監査等による適切な補完が必要になると思います。

3. 常勤監査役の存在価値

尾下:1で述べたとおり、東証は内部管理体制に問題がある事例が多いと主張しているわけですが、そもそも監査役会(監査等委員会)が有効に機能していれば、わずか2カ月間の新規上場審査のなかで東証から内部管理体制上の問題点を指摘されることはないともいえそうです。特に常勤監査役の役割と責任は重大だと思うのです。

村田:私も監査役監査を重視しているため、監査調書に非常に注目しています。 監査調書を読むとその会社の現状や常勤監査役の取組みについてよく理解できます。 世の中で起こっている他社の不祥事を積極的に学び、自社に内在するリスクとして、あらかじめ経営陣にアラートを発するリスク感度の高い監査役も居られます。

尾下:そうですね。稟議書の体裁チェックのような形式面に過度にこだわった監査を行っている常勤監査役が存在する一方で、問題発見型のアプローチで企業に貢献している常勤監査役も存在していて、差が激しいと感じています。

東証も企業の実情に照らして実効的な監査を行っているかを注視していると思いますので、ひな形の監査計画と監査調書を転用して体裁を整えているようなことではだめだと思うのです。

新興市場への上場後においても不祥事の事前予防というのは重要な経営課題になっているのが実情です。 そのため、常勤監査役の選択は、単なる上場準備対応の一環としてではなく、企業価値の期待値に長期的に影響を与え得る重要な経営課題として慎重に取り組むべきだと思います。

新規ビジネスの法令遵守

村田:新規ビジネスに係る法令違反について、景品表示法(以下「景表法」という)等の法律がとあるタイミングで脚光を浴びることがありますが、そういった背景について、どのような理解をすべきでしょうか。

尾下:この点に関しても、「最近東証は〇〇法を重点的にみている」という風説を耳にしますが、そのなかには大きな誤解だと思われるものも含まれていました。 たしかに、個々の上場審査の場面で問題とされることが多かった法律を集計してみると、結果的にいくつかの特定の法律が浮かびあがってくることはあるのかもしれません。 しかし、これも他の議論と同様に、東証は企業ごとにケース・バイ・ケースで実質的に判断していると理解をしたほうがよいと思うのです。

村田さんがあげた景表法の例で考えてみましょう。現在IPOをする企業のなかには、集客の多くを対面ではなくウェブサイトで行う企業が増えてきているわけです。 そのような企業は、ウェブサイト上の表示で大量に集客できることが売上の維持拡大に必須なわけで、もし仮にその表示が違法ということになれば従来の成長を支えていた集客ができなくなってしまうわけです。 そうするとこのような企業の法令遵守体制を考えるうえでは他の法よりも景表法の遵守体制が重要になるわけです。

一般化していえば、最近ある法律が上場審査において脚光を浴びているようにみえるとすれば、それは東証がその法律に注目しようという方針を持っているというよりも、上場申請企業のビジネスモデルが変化するなかで、企業価値の源泉の根幹になる活動を規律する法律も変化してきているからだということだと思います。

新規ビジネスが現れるごとに企業価値の源泉は変動していくでしょうから、たとえば、個人情報保護法が上場審査において注意されているという話もよく聞きますが、これも個人情報の取扱いが企業価値の源泉となる企業が増加しているから出てきた話と考えるべきでしょう。

そうすると、IPO準備企業は「最近東証は○○法を重点的にみている」という話に惑わされるのではなく、むしろ自社の企業価値の源泉の根幹になる行動を規律する法律は何なのかを考えて、その法律を遵守するための体制を特に慎重に整えていくことが重要だと思うのです。

村田:なるほど。今は個人情報保護法に要注意、景表法に要注意といった風潮がありますが、特定の法律に限った話ではなく、上場会社は社会の手本となる存在なので、当然のように合法的に事業を遂行しなければならないということですね。

尾下:そのとおりです。社会の変化は非常に速いので、過去に東証が注目していたと言われている法律に対応していくというフォロワーの姿勢では駄目です。数年後にいざ上場申請する際はまったく異なる法令が注目されている可能性がありますから。

村田:ベンチャー企業の経営者は、まだ法体系も定まっていない新しい領域にチャレンジすることも多いですし、べンチャー企業には法務に詳しい人材が少ないという事情もあります。 こういう法律上のリスクに対して、IPOを志す経営者は、どのように対処すべきでしょうか。

尾下:規制業種は特に注意が必要で、早い段階から十分な調査に基づき監督官庁と協議をしながら、適法性を確保しつつ本来やりたかった事業活動を実質的に実現していくことは可能な場面も多いと思うのです。 逆に、不十分な法的検証のうえに、リスクに気がつきもしないままに法的にグレーな形で事業活動を重ねてしまっている場合には、適法と強弁してくれる弁護士を無理にでも探し出そうという発想に傾いてしまうのだと思います。 しかし、重要なことは、規制業種で監督官庁が疑義を呈するような状況なのであれば、結局のところは主幹事証券も東証もイエスと言わないということを理解して早い段階から取り組んでいくことだと思います。

不正調査の必要性

尾下:「2019 新規上場ガイドブック(マザーズ編)」では、「最近において法令違反を犯した場合や、法令違反の恐れがある行為を行っているような場合」の対応についての記載が新たに追加されました。 「重大性に応じて、当該違反に伴う法的瑕疵の治癒状況及び再発防止体制の整備状況」を確認するということで、不祥事予防のプリンシプルと不祥事対応のプリンシプルを参照しています。

過去10年でみれば上場企業においては不正対応が非常に重視されるようになってきたわけです。 IPO準備企業においても、上場承認がなされれば明日から上場企業になるわけですから、少なくとも「最近に」おける不正については、上場企業に準ずる程度の対応が必要なのではないかと思います。

村田:では、やはりIPO準備企業においても、不祥事が起こったときには重要性に応じて、外部の法律専門家に客観的にリスクの程度や治癒状況をみてもらうことを推奨しているということですね。

尾下:はい。常に外部の法律専門家が必要ということではありませんが、おっしゃるとおり重要性に応じてそのような対応が必要になってくる場面もあろうかと思います。

この点に関しては「東証は第三者委員会の設置を求めてくる」という話がIPO業界では聞こえてきます。 これもIPOに関する風説の1つで、東証はそのようなカテゴリカルな議論はしていないと思うのです。 ガイドブックが参照している不祥事対応のプリンシプルも同様に、常に第三者委員会の設置が必要だとは言っていません。

そうはいっても、東証が不正対応を厳しく求めているのではないかということで、IPO準備企業が非常に高額の不正調査費用を費やしているという不満を証券会社やVC等の多くの関係者から聞いています。 不正調査費用の負担から上場スケジュールを後ろ倒しにせざるを得なくなったという事例さえあるようです。

村田:東証と引受証券会社のコミュニケーションも充実してきているように感じますが、これは非常に大事です。 引受証券会社が「こういう形をとったほうが、東証の印象がよいから、そうしてください」と指導する場面があり、それが引受証券会社自身のスタンスであればよいのですが、東証がそれを期待していると忖度し過ぎて、ともすれば、誰も求めていない体制の過剰整備に終わってしまうという懸念もあります。

尾下:おっしゃるとおりだと思います。また、不正調査報告書の体裁も過剰となっているのではないかという懸念もあります。 上場企業の場合は不特定多数の利害関係者が存在するため、彼らが完全に理解できるように詳細な報告書が必要で、そうであるがゆえ、膨大なコストをかけて数百頁の分厚い報告書を作成せざるを得ない場合もあると思うのですが、IPO準備企業の場合、説明責任を負うべき利害関係者は特定少数の株主と監査法人、主幹事証券、東証など、それほど多いわけではないこともあり得るため、実効性を維持しつつも不用意にコストを費やさない、異なるコミュニケーションのとり方もあると思うのです。

また、そもそも東証が重視しているのは、根本的な原因の究明と、それに即した実効性のある再発防止策の策定だと思うのです。その部分が本質的に不十分であるままに、第三者委員会方式にこだわったり、報告書の分量ばかりが分厚いだけとの懸念がある事例も多く耳にしています。 このような場合、コストばかりが高いものの、主幹事証券や東証の問題意識に応えていない、不十分な調査になってしまうと思うのです。

村田:上場会社の社外調査委員会報告書は多数開示されており、内容も詳細にまとまっているものが多く、今後、上場を目指す企業のリスクマネジメントを考える際に、とっても有益だと思います。

※このページはビジネス法務2020年5月号 特集2「上場準備の”実質”を見極めるIPO審査の最新トレンド」に掲載された記事を転載したものです。

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