「築地銀だこ」のIPOを支えた公認会計士たちの話 - IPO準備にとって大切なこと
2014年9月30日、「築地銀だこ」や「COLD STONE CREAMERY」などの事業展開で有名な 株式会社ホットランド が東証マザーズに上場を果たした。
現在の代表取締役である佐瀬守男氏が1988年に群馬のスーパーの敷地内で始めた小さな飲食店は、26年の月日を経て、今や連結売上高200億円を誇り、全国にグループ534店舗を抱える企業へと成長した。
同社は、ともすれば、その実績や知名度から「上場もできて当然」と捉えられてもおかしくない企業だが、そんな優良企業でさえも簡単ではないのがIPO(新規株式公開)準備である。特に、上場直前の準備作業は管理部門はもちろん、全社的にも過酷を極めることは少なくない。そして、ホットランドも例外ではなかった。
ホットランドはどのようにしてIPO準備を乗り越えたのか?ホットランドのIPO準備とそれを支えた公認会計士たちの活躍を、同社上場準備責任者であった土谷祐三郎氏から伺った。
2000年公認会計士試験合格。監査法人トーマツに入所後、国内大手企業の監査のみならず、金融機関、著名外資企業などの監査、債権評価コンサルティングなどの経験を経て、戦略系コンサルティング会社コーポレイトディレクションにて、戦略立案、業務改革、組織改善、事業再生、各種デューデリジェンス、M&Aなど、様々な業種においてコンサルティング業務を経験。その後、アジア展開に強みを有する投資会社ACAに入社。ACAの投資時期の2011年12月よりホットランドに執行役員財務経理部長として出向。その後上場準備責任者へ。
大手監査法人にて会計監査・IPO支援業務・内部統制支援業務・IFRS導入支援業務等、さまざまな業務を経験。 5年間の監査法人経験を得て、2011年10月に株式会社Bridge(現ブリッジコンサルティンググループ株式会社)を設立し代表取締役CEOに就任。 その後、多数の成長企業を中心に経営管理コンサルティング業務に従事。 人間関係を大切にし、クライアントと同じ立場にたち、当事者として全力で業務に従事することをモットーとしている。
2011年12月 -ファンドから送り込まれたひとりの公認会計士
投資ファンドの支援を受けIPOを目指す
わずか1年で日本初のIFRS上場を実現
ホットランドがIPOを本格的に目指し始めたのは2011年12月からだ。同月、ホットランドはアジア展開に強みを有するACA株式会社が運営するファンドから投資を受け、IPOを目指すこととなった。
IPOの申請期は2014年12月期の中間決算である2014年6月。リミットまで2年半しかないという差し迫った状況の中、ホットランドへの増資と同時に、同社の上場に向けた経理体制や管理体制の構築を目的に執行役員財務経理部長として出向してきたのが、公認会計士の土谷祐三郎氏である。
土谷氏は赴任当時のホットランドの状況をこう語る。
「当時のホットランドは管理部門を群馬から東京へ移転したことなどによって、管理部門メンバーが不足しておりました。CFOを外部から採用するという話もありましたが、ちょうど私が公認会計士として財務会計に関する見識もあったため、白羽の矢が立ちました。」
ACAは、「築地銀だこ」という国内屈指のたこ焼チェーン店を展開するホットランドの事業を、オンリーワンかつナンバーワン、ブランド力もあり、海外展開の余地があると評価し、そこに成長可能性を感じ投資を決定した。また、ホットランドは、IPOのみならず、海外展開を行うためのパートナーを求めており、アジアにネットワークを有するACAを選んだという経緯があり、まさに両社の思惑が一致した投資であった。
斯くして、ホットランドは、ACAによる協力体制を得てIPOを目指すこととなった。
資金調達&IPOを目指せる管理体制の構築
ホットランドに赴任した土谷氏の最初の仕事は、安定的な財務体制の構築であった。
当時の同社は、石巻への本社移転による一時的な支出増や、出店拡大に伴う支出の増加などが影響し、資金繰りはそれほど楽ではなく、10行以上の金融機関からの複数の短期借入を行い、それを回すという体制だった。
土谷氏は、シンジケートローンを組成することで、それら金融機関を統合すると共に短期の借入を長期の借入に変更し、更に上場までに必要な資金+αの資金を調達することによって、財務の安定化に成功する。
上場経験者不在…、不足する管理部門人材
また、土谷氏は管理体制の整備にも着手する。しかし、こちらはファイナンスと違い、管理部門を支える人材が必要となるため、ひと筋縄ではいかなかった。
当時の財務経理部門は、非上場企業の管理部門としては問題なかったが、メンバーは土谷氏含めてわずか5名。また、IPOを目指すにあたって必要となる連結会計や開示に関する知識を有する人間がいないどころか、単体決算をひとりで締められる人材すら不足していたため、土谷氏自身も入社早々、自らが本決算(12月決算)に対応しなければならなかった。
自らの古巣である監査法人トーマツを監査人に据え、減損会計、資産除去債務、税効果会計など上場に向けての論点の整理、監査法人対応のすべてをほぼひとりでこなす一方で、税務、資金繰り、事業計画の策定など徹夜続きの日々を送ることになる。
2012年4月~2013年中旬 -IPOに向けた数々の課題、経理部門の位置づけの変化
ターニングポイントとなった後輩会計士の入社
2011年12月期の決算をこなしながら、上場に向けての管理人材不足が大きな課題であると考えた土谷氏は、すぐさま人材の確保に動いた。
IPO準備にあたっては、監査法人や証券会社など外部からのサポートやアドバイスを受けることができるが、実際に作業を進めていくのは当事者である企業の現場の人間たちだ。ホットランドではIPOに耐えうるだけの管理職もスタッフも足りない…
そこで、「マネジメントができ、かつ、プレイヤーとしての実務もこなせる人材がまず必要だ」と考えた土谷氏は、自らの人脈を頼りに、監査法人時代の後輩(現・経営管理本部長の高橋謙輔氏)に声をかける。
こうして、もうひとりの公認会計士である高橋氏が財務経理部長として入社することとなる。
土谷氏は、高橋氏の入社もIPO準備初期段階における大きなターニングポイントであったと語る。
「IPOを実現するためには、精神的にも肉体的にもハードな状況を乗り越えていかなければなりません。そのためには、絶対的に信頼できる人材が必要でした。トーマツ時代の後輩である高橋とは、彼が新人の頃から一緒に仕事をしており、数々の困難をともに乗り越えてきていたので、スキル、人柄共に信頼できました。」
2012年4月~2013年中旬 -IPOに向けた数々の課題、経理部門の位置づけの変化
最初の1年は“上場に向けて意思を固める1年間”だった
土谷氏からホットランドの財務経理部長として誘いを受けた高橋氏は、すぐさま監査法人に辞表を提出し、2012年4月、ホットランドに財務経理部長として加わった。これによって、土谷氏は上場準備担当責任者として上場準備、高橋氏は財務経理部長として財務経理、と業務を分担出来る体制となった。
月次決算の早期化ならびに正確性の向上、関連会社間取引の整理、内部統制への対応……。土谷氏と高橋氏というふたりの公認会計士の活躍により、ホットランドの経理業務は次々と改善され、IPO準備も徐々に進んでいくこととなる。
しかし、当時のホットランドの売上高は既に180億円、経験豊富な公認会計士ふたりをもってしてもIPO準備は簡単なものではなかった。
土谷氏は同社のIPO準備を振り返り、「最初の1年は会社として上場に向けての意思を固める1年間だった」と語る。
IPO準備ではよくあることだが、ある程度の社歴を持つ未上場企業がIPOを目指すとなると、それまで社内で当たり前となっていた慣習を捨て、上場企業としてのあるべき体制を作っていかなければならない。しかし、それはまさに「言うは易く行うは難し」である。
上場を目指す多くの企業では、経営陣や従業員が「IPOを目指す」ということを頭では理解できていても、その過程において「これから何が起こっていくのか」「何をしなければいけないのか」までを具体的にイメージできているケースは少ない。
それはホットランドにおいても例外ではなく、同社の経営陣や従業員たちも、IPOに向けて社内で生じる数々の制度変更や規定整備に戸惑い、時に管理部と衝突しながら、少しずつ“上場することの意味”を理解し、そして、IPOに向かう意思を固めていくこととなる。
事務部門から攻めの経理部門に -しかし、圧倒的に足りない人的リソース
IPO準備に入った当初の管理部門の状況を振り返り、土谷氏は以下のように語ってくれた。
「私が入社した当初の管理部門は、各メンバーは担当職務をしっかりとこなしてくれてはいましたが、メンバー個人に仕事が紐付いており、担当者以外は業務の詳細がわからない属人的な状態でした。
また、経理部は会社にとって事務処理部門であり、経理業務を引き受けるだけで、こちらから積極的に数字を分析し現場への提案や改善につなげていくことができていませんでした。
これに高橋が加わり、業務の標準化と効率化を進めていきました。そうすることで、決算など財務会計面だけでなく、店舗別P/Lの精度向上など管理会計面の整備も進み、経理部は現場や他部門とのコミュニケーションやディスカッションをも積極的に行う“会社にとって欠かせない部署”へと変わっていきました。」
一方で、引き続き土谷氏を悩ませたのが人材である。
高橋氏が加わり、徐々に経理部門は整備されては来たが、目標とする上場時期を考えると「上場に耐えうる経験を持っていないメンバーたちを育成していくという方法ではとても間に合いそうにはなかった」という。
また、管理部門強化のための採用活動は行っていたものの、応募者の状況も芳しくなかった。
同社としては、IPO準備や上場企業での経理経験者を採用できるのが理想であったが、飲食業という業種柄、休日も少なく、他の企業と比較して高い給与を提示できるわけでもなく、転職市場において優秀層に同社を選んでもらうのも難しかった。
それに反し、幸いにも会社はIPOに向けて順調に成長を続けていく。
売上も店舗数も拡大を続け、国内外での出店やM&Aによる買収など経理部門に関連する作業ボリュームもどんどん増え続けていった。IPOに向けて管理体制を整備してもそれ以上に会社が成長し、管理部門が追いつかないのである。
また、皮肉にも経理部門が社内から必要とされる部署となったことも、経理メンバーたちの負担を増加させることとなった。管理体制を整備しても、事業はどんどん成長し、経理作業はもちろん、現場からの相談や要望への対応も増えていく……。
この時期、土谷氏自身も役員会資料の作成を手伝うなど、土谷氏と高橋氏のふたりは労力をすべて使いきる状況、連日徹夜で作業をせざるを得なかった。ふたりはもちろん、迫るIPOの期日に向けてメンバーへの負担は限界へと近づいていた。
2013年10月 -第3の公認会計士、IPO準備請負人 – Bridgeグループ- 登場
IPO準備の山場を乗り越えるために
IPO申請まで1年を切ろうかという2013年中頃、同社は会計システムの入替えを行った。
それは、売掛金管理を始めとした経理処理の精度を上げ、経理業務の効率化を実現するためであったが、システム入替えには、新しいシステムの運用方法が安定するまでは、現場の負担が軽減されにくいというデメリットがある。同社も例外ではなく、システム入替えの恩恵を受ける前の産みの苦しみに直面した。
IPOまで1年を切り、業務は佳境に入るものの、相変わらず人手は足りず、採用活動も苦戦していた……。
土谷氏、高橋氏のふたりの会計士がいれば、IPOに向けた残りの課題を乗り越えることはできるだろう。ただ、人材リソースが足りない…、最悪の場合、IPOが遅れることになりかねない……。
そうした危機感から、現状を打破できる強力なパートナー探しに奮闘していたところ、IPO支援を強みとするコンサルティングファーム「Bridgeグループ」と出会った。
ホットランドのIPOを支えた第3の公認会計士の登場である。
IPO・決算・開示支援のプロフェッショナル集団-Bridgeグループ-
Bridgeグループは、若手公認会計士を中心としたメンバーで構成されたプロフェッショナル集団で、上場企業やIPO準備企業の経営管理部門支援を専門とするコンサルティングファームである。
現在、複数のIPO準備企業を支援中であり、昨今のIPOコンサルティング市場において急速に実績を積み上げてきている。
Bridgeグループの代表であり公認会計士の宮崎良一氏は、ホットランドのIPO支援に加わった当時を振り返り、こう語る。
「ホットランド社の場合、土谷さんや高橋さんという優秀な公認会計士が在籍されていたこともあり、IPOに向けての論点やスケジュールは明確でした。一方で、IPOの時期が決まっているにも関わらず、それを実行するリソースが足りないということがひしひしと伝わってきました。そんな状況をなんとしても打開し、スケジュール通りにIPOまで持っていきたいと、気合いが入りましたね。」
Bridgeグループでは、クライアントの業務を受託するアウトソーシングサービスを行っているが、事務処理代行を行う一般的なアウトソーシング会社とは異なり、公認会計士が中心となって業務を受託することによって、決算や開示、上場申請書類の作成といった高度な経理業務支援を行う点が特徴的である。
そして、ホットランドのIPOを支援するために同社は、若手公認会計士2名をアサインすることにした。
「当社では、即戦力となる公認会計士がクライアントの管理業務を支援しますが、ただ闇雲に会計士を出向させるということはしません。クライアントとの綿密な打合せの上、先方の管理部門における課題やアウトソーシングのテーマを明確にし、先方の業務効率が最大となる支援体制を作り上げます。
ホットランド社の場合、決算業務を既存メンバーで対応して頂き、上場申請にかかる過去5期のうち3期分の財務諸表の作成を当社が支援するところからスタートしました。」
宮崎氏は語る。
IPOの成否を分けたBridgeグループの支援
Bridgeグループという強力なパートナーを得て、ホットランドのIPO準備は加速していく。土谷氏、高橋氏、Bridgeグループという3者の役割分担と連携が見事に回り始めたのだ。
土谷氏は、管理部門業務に従事する割合を減らし、IPO準備以外にも海外展開の主導など事業面に従事。高橋氏は決算・開示業務をマネジメントする。Bridgeグループは後方から実務を支援するという役割分担だ。
ホットランドのIPO準備をふり返る時、前半のターニングポイントが現・経営管理部長である高橋氏の加入であるならば、後半のターニングポイントはこのBridgeグループの加入と言っても過言ではないだろう。
宮崎氏によると、同社のアウトソーシングサービスは3つのフェイズに分かれているという。
-
フェイズ1:即戦力となる人的リソースの提供
IPO準備のように、突発的に発生するまたは一定期間のみ発生する業務をアウトソーサーとして受託し、クライアントの業務負担を減らす -
フェイズ2:業務の標準化支援
業務の受託と並行して、クライアントの業務フローの構築を支援。組織として業務を運用していけるように標準化を行う。 -
フェイズ3:業務の内製化支援
Bridgeグループからクライアントへ業務を返却。ただ業務を戻すだけではなく、クライアント側が自分たちで業務を行えるようスタッフのスキルや成長度合いを見ながら計画的に移行していく。
ホットランドの支援において、Bridgeグループは、IPOまでの期間でフェイズ1~2を実行した。IPO後の現在は、フェイズ3として、ホットランドが安定的に開示業務を行えるよう支援している。
土谷氏は、Bridgeグループをこう評価する。
土谷氏 「メンバーが主にBIG4監査法人出身の公認会計士で構成されており、品質に安心感がありました。タイムチャージ(時給制)のコンサルティングファームが多い中、同社はIPO支援をパッケージ(定額)で受託してくれたため、予算も決めやすく、費用対効果も見えやすかった。」
とはいえ、Bridgeグループの支援が軌道に乗りつつも、ホットランドの事業はそれに優るとも劣らない勢いで成長していたため、最後の最後まで気が抜けない状況でもあったという。
「当社はIPOという大きな目標に向かって動いていましたが、事業はIPOありきではない。まず企業としての事業戦略があり、IPO準備はあくまでその一部だからです。
例えば、IPOまで1年を切った2013年10月と2014年1月にそれぞれ1社ずつの買収を行い連結対象会社が増えたため、最後まで管理部の業務は増え続けました。そのため、Bridgeグループが作成してくれた書類を当社側がチェックするのが追いつかないくらいでした。」
そのような中、ホットランドのIPO準備が進むと共に、同社のメンバーや支援者、さらには、監査法人や主幹事証券会社も含めてまさに全ての関係者の気持ちがひとつになっていく…。
IPOに向けて大切なこと -想いをひとつにできるメンバーが揃った
今だから言えるが……と前置きしつつ、土谷氏は語る。
「2014年6月の中間決算で上場申請を予定していたにも関わらず、2014年に入った段階で、監査法人も主幹事証券会社も当社のIPOを楽観視していませんでした。むしろ、準備が間に合わない可能性があると思われていました。
ただ、そこを乗り越えることができたのは、当社のメンバーはもちろん、当社と想いをひとつにしてサポートしてくれる支援者のみなさんがいたからだと思っています。
そのきっかけのひとつがBridgeグループであり、彼らとの関係は“委託業者”といったビジネスライクなものではなく、“人と人との付き合い”があるものでした。業務を委託している“外部業者”のはずが、彼らの支援は、彼らの気持ちが“ホットランド内”に常にあることがひしひしと伝わってくる心強いものでした。」
事実、ホットランドのIPOにおいては、土谷氏がその人脈を駆使し、顧問である税理士法人、弁護士なども含め、同社のIPOに向けた動きを全面的に支援してくれる協力者を増やしていった点も成功要因のひとつであったという。
そこにBridgeグループが加わりホットランドがIPOへ向かう一体感はより強固なものとなった。一方、Bridgeグループの宮崎氏も「IPOが成功する企業と、そうではない企業をわける要因のひとつに“IPOに関わるメンバーの想いの強さ”があるのは事実」と語る。
「Bridgeグループでも現在、複数の企業のIPO準備を支援していますが、IPOというものは、IPOを目指す側にとっても支援する側にとっても大変な仕事。そのハードさは常に割の合うものではないし、強い気持ちや情熱がないと踏ん張りも効きません。
そのため、社内のメンバーが一体になるのはもちろん、外部支援者も“契約で決まっている以上にクライアントをサポートする”くらいの熱く強い想いを持ったメンバーが揃っていることが重要。
Bridgeグループは“ハートで支援する文化”を持ったコンサル会社だと自負しており、普段からクライアントと近い距離でサービスを提供することを心がけていますが、ホットランドの皆さんとは仕事外でも何度も飲みに行ったり、当社のメンバーもプライベートでホットランドの店舗をよく利用したりするなど、初期段階から良い関係で仕事をすることができました。
そうやって、お互いを信頼し合い本音で話せる良い状態で仕事をさせて貰えたことによって、ホットランドの皆さんとともにする時間が心の底から楽しいと思えましたし、自然と支援にも力が入りました。今回のIPO支援を通じて得たものは当社としても大きかったですし、そんな素敵な場を提供してくれたホントランド社に心より感謝しています。」
自分は誰のために動くのか -ファンドとしてのミッション、社長・佐瀬氏との絆
2014年9月30日、ついにホットランドは東証マザーズへの上場を果たす。土谷氏は、2011年12月に同社に赴任してからの約2年10ヶ月をこう振り返ってくれた。
土谷氏 「事業の成長にはオーナー社長のような大きな力を持つ社長の存在が必要ですが、一定の規模を超えると社長の目が届かなくなっていきます。ホットランドのIPOは、IPOをきっかけとしてそこを組織化するベストのタイミングだったと思います。また、買収や海外展開を推進していくのにも良いタイミングでした。」
一方で、未上場企業がIPOを目指すということは、パブリックカンパニーとなるためにそれまであった体制を大きく変えるということであり、IPO準備の過程においても時に管理部と現場がぶつかることもありました。社長の佐瀬とも喧々諤々の議論を何度もかわしました。
私は株主であるファンドから出向してきていますので、正直、そう言った議論の中でファンドとホットランドの利害がぶつかって立ち位置が難しくなることがなかったわけではありません。けれども、そんな時、私は、長期的に会社の為になるのは何かを考えるということを意識してきました。一時的に利害がぶつかろうとも、ホットランドの為になることは、長期的には株主やファンドのためにもなるとの考えで動いたのですが、今振り返ると、その選択をして本当によかったと思います。」
また、土谷氏はホットランドのIPO準備における想い出を、同社代表取締役である佐瀬氏や同社メンバーへの想いで締めくくってくれた。
「ホットランドのIPO準備ではいろいろなことがありましたが、佐瀬社長が本気でIPOへの旗を振った瞬間が特に印象に残っています。社長自らが通常業務を終えた後に、我々上場準備メンバーと共にIの部の文言を深夜に及ぶまで一言一句考えていくなど上場に対する本気度を見せた瞬間、それまで必ずしも連帯感のなかったメンバーたちも一斉にそちらを向き、1つのチームとしてIPOに向かってものすごいエネルギーで突き進んでいきました。創業社長の求心力を目の当たりにしました。これがなければ、予定通りのこのタイミングでの上場はなかったかもしれないと思います。
ファンドから赴任してきた当初、自分は社長から“ファンドから来た人間でどこまで信用出来るか分からない”と思われていたと思うし、事業の方針や戦略を巡って何度も衝突しました。それが、いつの間にか、“上場のあかつきには東証の鐘を鳴らして一緒に泣こう”と語り合い、ホットランドに来て欲しいと言われてもらえるような関係になった。そんな社長を始め、ホットランドのメンバーと一緒に働けた時間は何ものにも代えがたいです。」
2014年9月30日、東京は茅場町、東京証券取引所。そこには佐瀬氏、ホットランドのメンバーとともに涙を流す土谷氏の姿があった。
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