ビジネスデューデリジェンスの必要性
ビジネスデューデリジェンス(以下「ビジネスDD」)は主に事業性の評価を目的として、M&Aや事業再生の場面で多く行われます。
事業性の評価とは、対象企業の成長性や収益性を、事業の概要や対象企業を取り巻く市場や業界の特性・動向を把握することで競争優位の源泉を明らかにし、将来のキャッシュフローの創出能力を評価することです。
一般的に、デューデリジェンスとは過去から現在までの分析を意味しますが、ビジネスDDは過去から現在までの事業性評価を行うことで、現在から将来への事業の方向性を担保する役割を担うといえます。
特にM&Aや事業再生の現場では多くの利害関係者が存在しており、事業計画を作成し関係者の同意取得を目指すことになりますが、皆が納得できる事業計画となるためには、このビジネスDDに基づいた事業の共通認識を持つことが重要となります。
以下では、ビジネスDDの具体的業務からその必要性をお話します。
1. 外部環境分析
外部環境分析とは、対象企業を取り巻く法規制や市場の成長率や業界の動向、さらに人口動態、技術革新等の対象企業ではコントロールできない外部要因を分析することです。
例えば、市場が拡大傾向にある企業であれば対象企業の将来売上高も増加することが期待されますし、逆に市場が縮小傾向であれば将来の売上高は減少することが懸念されます。また、新技術が次々と生み出される現代において、新技術の台頭や人口減少等は将来の事業性に大きな影響を与えるものと考えられます。特に地域経済を支える地方の中小企業などは、地域の人口が減少することは大きな意味を持ちます。
このように経営努力以外で対象企業の事業に影響を与える要素を特定することが、事業性の評価には必要不可欠です。
ビジネスDDでは対象企業の属する市場や業界が多岐にわたるため、画一的なフォーマットに落とし込んで分析することは困難ですが、対象企業が事業を行う国のマクロ分析、つまり政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)を対象企業の将来キャッシュフローに影響を与える要素について分析を行い、次に市場分析を行い、さらに競合他社の分析という流れで行うことが一般的です。
特に大事なのは市場分析です。対象企業の属する市場がどこなのか、また将来属するかもしれない市場がどこなのかを特定し、その市場の成長性や特徴を正確に把握することが、対象企業の事業性を適切に評価できるようになるからです。
2. 内部環境分析
内部環境分析では経営ビジョンや組織体制、人事制度、営業体制等の会社の理解に加えて、特に対象企業の成長性や収益性などに焦点をあてて分析します。
対象企業の成長性の分析とは、具体的には損益計算書の売上高から営業利益までの要素を管理会計の観点で分析するイメージです。 管理会計の観点とは、経営者の意思決定指標(KPI)に即して売上高や利益の分析を行うことですが、例えば売上高なら「売上単価×販売数量」や「客数×客単価」のように因数分解を行い、会社が保有する内部データを使用して売上高の中身を可視化して成長性を分析します。
収益性の分析では売上高以外の費用構造の分析を行います。サプライチェーンに準じて仕入先からの調達コストや人件費、経費の分析を行うことが多くありますが、例えば製造業のように原価構造が複雑である場合には、対象企業も正確に原価を集計できていないこともあるので、原価計算の再集計を行うこともあります。このように売上高と同じく費用も可視化した上で収益性の分析を行います。
3. 外部と内部を知ることによって自社を理解
外部環境分析と内部環境分析を組み合わせることで、自社の強みと弱みの把握が可能となり、これにより蓋然性の高い事業計画の立案が可能となります。
例えば外部環境分析によって明らかになった市場成長率と内部環境分析によって明らかになった売上高成長率を比較した時、対象企業の売上高成長率が市場の成長率を上回っている場合、対象企業は市場のシェアを増やしていることになり、対象企業には競合他社を上回る強みを持っていることが示唆されます。
ることになり、対象企業には競合他社を上回る強みを持っていることが示唆されまする。この強みこそが競争優位の源泉であり、外部環境分析と内部環境分析を比較することで、競争優位の源泉を定量的に示すことが可能となります。
一方で、市場成長率を対象企業の売上高成長率が下回っている場合は弱みを示唆することになりますが、この弱みこそが事業計画で改善施策のターゲットとなります。またM&Aではお互いの特徴を正確に把握することで蓋然性の高いシナジーを立案できるようになります。
ビジネスデューデリジェンスの必要性
ビジネスDDでは過去から現在の事業性を評価することは既に述べたとおりですが、企業はその連続性の中で将来の事業も継続すると考えられます。そして事業計画ではこの連続性に変化を与えるような要素を含めますが、ビジネスDDによって企業の強みと弱みを明らかにし、強みを活かし弱みを改善するシナジーを目指す事業計画の立案が可能となります。このように蓋然性の高い事業計画を作成するためにもビジネスDDは必要です。