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2020年4月28日

決算開示と監査法人対応

上場会社の決算開示において、監査法人対応は重要です。上場会社は財務諸表について監査法人の監査を受ける必要があります。また、上場を維持するためには、実質的に、監査結果として監査法人から無限定適正意見を受ける必要があり、監査法人対応は決算開示実務において極めて重要です。

以下では決算開示実務における監査法人対応で特に重要な点を3つ取り上げ解説します。

1. 論点になりそうな事項は事前に監査法人に伝え、解決しておく

監査法人が行う決算時の会計監査(以後、「決算監査」と言うことにします。)は通常、単体決算を例にとると、月次決算を終え、決算修正仕訳を入れ、税金計算をして、税金に係る仕訳が入った後に実施されます。経理の実力に不安がある場合は、税金計算前に決算監査が入ることもあるでしょう。

さて、あなたは多店舗展開をしている小売業の3月決算会社の財務部長だとしましょう。決算監査前の数字で当期は売上高1,000億円、税引前当期純利益30億円でした。財務担当取締役にも会計監査前という断りを入れたうえでこの数字を報告しています。ここで、決算監査中に監査法人の現場責任者から、一部店舗の将来キャッシュフローの見積が甘く、監査法人の試算では追加で5億円の固定資産の減損損失が発生すると言われました。

これだけ数字が動くことを財務担当取締役に伝えるとどういった反応になるでしょうか?「寝耳に水」ということで、ものすごい叱責を受けることになるかと思います。あなたが社内でもっと上のポジションを目指しているとするならば、大きなマイナスの評価となるでしょう。マイナスの評価になるのは業績が悪化するからではなく、決算発表の日がもう目の前に迫っている時期にこのような報告が上がることに対してです。

ではどうすれば良かったのでしょうか?各店舗の業績は3月末まで確定しなくても、2月末まで測定できていれば、例えば3月はその業績の横置きと仮定して年間の損益を推定すれば、固定資産の減損の検討を3月中に行うことができます。その検討結果を監査法人と協議しておけば3月中に期末に計上される減損損失の金額の目安が把握できます。このようにしておけば、決算監査時に突然の巨額損失計上の可能性がぐっと下がります。

2. 決算開示スケジュールを事前に監査法人に伝える

決算開示スケジュールは、決算報告日から逆算して決めておくのが通常です。具体的には、会社法の監査報告書日・決算短信発表の日を5月10日として、連結計算書類・計算書類・決算短信の確定が5月8日、連結決算の確定は4月26日日、単体決算の確定は4月19日といった感じです。こういったスケジュールについて、監査法人が決算監査の日程を決めようと打診してきた段階で伝えることが大切です。なぜなら、監査法人が決算監査の日程を決めようとする段階で、決算監査に必要な人員の確保もするからです。公認会計士は就職が難しい時代と就職が容易な時代を繰り返してきましたが、決算監査時は常に人手不足でした。そのため、監査法人は決算監査の人員確保に非常に苦心しています。

ただ、こういった決算開示スケジュールの詳細を監査法人からの日程打診の段階で伝えておけば、監査法人は会社の提示してきたスケジュール通りに監査が終わるような人員を確保して、何とか終わらせようとするはずです。そのため、結果として会社が考えた決算開示スケジュール通りに進む可能性が高いです。

一方、会社法の監査報告書日・決算短信発表の日が5月10日ということだけ、監査法人に伝えただけでは、監査法人側は決算監査の終盤のみに人員を確保して対応するかもしれません。結果的に5月10日というスケジュールは守れるかもしれませんが、決算監査の序盤から監査法人が十分対応してくれれば、決算対応の従業員の残業は少なく対応できたのに、終盤になってやっと十分な監査対応ができるようになったということであれば、従業員は毎日監査対応をした後に監査で指摘された事項の修正をしなければならず、決算対応の残業が膨大になってしまうかもしれません。そうなれば、残業代が増えると同時に従業員も労働環境に不満を唱えるという望まない状況になり得ます。

監査法人に決算開示スケジュールの詳細を早めに伝えて、対応できる人の確保をさせることが極めて重要です。

3. 財務諸表の増減分析を行い、監査法人に提出する

監査法人は会社から監査対象期間の試算表を入手すると、前期・前々期等との最終試算表と比較する、「リードシート」と呼ばれる比較表を作成します。そして、前期と比較して、○○百万円以上増減している、もしくは、○○%以上増減している勘定科目についてはその増減理由をリードシートに書くといったことをやっています。監査法人には決算監査時に総勘定元帳を渡すと思いますが、総勘定元帳を見てもよくわからない増減理由は会社の決算開示チームに質問してきます。質問された段階で決算開示チームメンバーがよくわからない場合は調べて、後で監査法人側の質問者に回答する必要があります。決算開示作業を進めたいのに、そういったことに時間が取られると、計画していた決算スケジュール通りに進まなくなる可能性があります。

そこで、監査法人の決算監査時までに増減分析表を作成し、監査法人に提出することをお勧めします。そうすれば、監査法人は総勘定元帳を見てもよくわからない増減理由をこちらに聞いてこずに、まずはその増減表を見て目的の増減理由を把握することに努めます。そうなれば、増減分析表を作らなかった時と比べて格段に決算開示チームメンバーの時間に余裕ができ、決算開示を早く進めることができます。

増減分析表作成には決算監査対応の時間を減少させる効果がありますが、もう1つ大きな効果があります。それは、増減分析表作成の段階で明らかに間違った会計処理をしていれば、比較により間違いに気づくことができる効果です。間違いに監査法人の決算監査前に気づけば、間違いの修正は容易です。容易であるうえに、自分達で修正しているために、JSOX上も有効な内部統制が構築できていることになり、二重丸の対応になります。